こどもの病気の対応
―子育てにおける親の過剰期待―
子どもの頃、「母を慕いて3千里」という物語を読んだ記憶があります。 クオレ作「愛の学校」という小説の作中話なのですが、童話の絵本にもなっていますから、ご存知の方も多いでしょう。これが最近は「母を殺(あや)めて1300キロ」になりました。この事件を起した少年の思考と行動は、短絡的ですが、心情は理解不可能ではありません。

佐賀の西鉄バスジャック事件にしても、この事件にしても、親にとっては、もはやこどもが凶悪事件の被害者になる恐れよりも、加害者になってしまう怖さを心配しなければならなくなってしまった、と危惧される方が多いと思います。

「文芸春秋(7月号)」に、精神科医の野田正彰さんと、作家の高村薫さんの対談が掲載されていますが、少年時代からネコなどの大型動物を虐待した経験を有する人は、将来、反社会的な人格に成長する可能性が、75%ときわめて高いことが指摘されています。

私のクリニックでカウンセリングを受けておられる方のご家族の中にも、ご自分のお子さんが将来、マスコミで報じられるような事件を起すのではないか、反社会的な人間になってしまうのではないか、と心配される方がおられるのです。佐賀の事件で、少年の母親は、こどもが事件を起すことを予測し、阻止すべくいろいろな機関を奔走していたようですが、あんな結果になってしまった。誰も少年の行動を止めることができなかった。

それは、何が悪かったのでしょうか?精神医療の敗北?学校教育の責任?それとも家庭教育(しつけ)の失敗?そのことをこれから考えてみることにします。(次号に続く)
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