こどもの病気の対応
―発熱・下痢・嘔吐―
(前回の続き)高熱が40度も41度もつづいて、解熱剤(げねつざい)を何回使ってもどうしても熱がさがらない、どうしたらいいの?とのお尋ねが頻々にあるのですが、答えは、「やがて自然にさがるから、放っておきなさい」「見ないふりをしなさい」です。より正確に言いますと、「体温そのものは計らないふりをする」です。

もっと大切なことがあるのです。同じ39度でも顔色が赤い場合と青い場合があります。手足の温かい場合と冷たい場合があります。

高熱でも顔色が赤く、手足が温かい場合には循環が良いので、解熱剤を使用してもあまりマズイ影響はありません。

くすりを使う場合、くすり自体の逃げ道を確保しておくことが大切です。 ほとんどのくすりは肝ぞうで解毒(げどく)されて腎ぞうからでます。

ところが顔色がわるく手足も冷たい時には、解熱剤(げねつざい)の効果はあまりでません。血のめぐりをよくするのが先です。早めに水分を与えて手足が温かくなるのを待ちます。そうすれば、解熱剤のもつマイナス面がでにくくなるのです。

下がらない、サガラナイ、と言って立て続けに解熱剤(げねつざい)を使用していると、やがてドスンと下がることがあります。34度や35度の低体温になります。 これは高熱よりもっとわるいのです。

夏山遭難と同じで、体を冷やしすぎると、細胞の中のいろいろな酵素(こうそ)のはたらきが悪くなります。

病気に立ち向かうためには、これらの酵素のはたらきを活発にしておくことが大切。 医学が進歩して、いろいろな病気のメカニズムが今よりもっと解明されてくれば、カゼのちりょう薬から解熱剤(げねつざい)が姿を消す日がこないともかぎりません。

私は、もともと解熱剤というものは、もはやなくても良いくすりのひとつだと考えています。しかし上手に使えば、まだまだ有効な場合が多いのも事実。

どうしても解熱剤(げねつざい)を使わざるをえないのは以下のような場合でしょう。
@ 眠れない時、
A 水分がとれない時、
B 熱性ケイレンの体質がある時、
C頭痛や耳痛などを訴える時(一晩だけの痛み止めとして)

熱がでた→それっ解熱剤(げねつざい)、咳→ほいっ咳止め、下痢→ほら下痢止め… もういい加減にこんな反射的な対応とはおさらばしたいものです。
【経口補液(けいこうほえき)】
赤ちゃんが何度もはくとたいていの親はあわてます。パニックになるお母さんもいます。しかしあわてなくてもよいのです。冷静に対応して下さい。 吐かない人=儚(はかな)い人になるよりマシかあーと思いましょう。

おう吐を放置しておくと、脱水症になることがあり、とくに乳幼児ではおう吐や下痢そのものよりも、その結果としておこってくる脱水症がこわいのです。

脱水症を予防するには、一定の割合でナトリウムやカリウムなどの電解質と糖分(ブドウ糖あるいは白糖)を調合した乳幼児用のイオン飲料が有効です。

乳幼児ではおう吐や下痢に対してスポーツドリンクを与えてはいけません。乳幼児用のイオン飲料は脱水症予防のため、特別に開発された治療用の水分です。

日本にいるとなかなか想像できないことですが、よその国の中には、点滴などをしようとしてもできない、医療のおかげを受けられない地域がたくさんあって、現在でもおう吐や下痢にともなう脱水症で、毎年、数百万人もの子どもたちがなくなっています。そこでは乳幼児用のイオン飲料は「命の水」と呼ばれているのです。

しかし、せっかくこれらのイオン飲料を与えても吐いてしまってあわてることがあります。それはガバッと飲ませるから。
まず吐きたいだけ吐かせてしまって、胃(い)を空っぽにします。

最後に胆汁(たんじゅう)混じりの胃液が少しだけでるようになったら、シメタもの。 それからスプーンやスポイトなどを使って、ちびちびと時間をかけて飲ませます

末期(まつご)の水を飲ませるつもりで、ゆっくりと

このように口から点滴をする要領で水分を与えることを、経口補液というのです。 決して本人に哺乳びんやコップを持たせて、ガバッと飲ませてはいけません。

大量におう吐をした後では、のどが乾くからついついガブガブと飲んでしまうのです。ところが吐き気がある時は、胃に水分が溜まるだけでその先には移動しません。

胃袋をだましだまし、なだめすかして、コッソリひそかにチビチビ。 これが一番大切な原則です。

胃袋の壁をチョロチョロとイオン飲料が伝わって、十二指腸から先へ侵入できればしめたもの。この方法では、一部分はまた吐きますが、大部分は吸収されておう吐は数時間で止ります。

一度にどっと飲ませると、胃袋はそれを先へ送るために大きく収縮します。しかも胃袋に何かがたまれば胃液がでますから、それも吐いてしまう。 つまり飲ませれば飲ませるほど体液を失い、ますます疲れてしまうのです。

イオン飲料に組み合わせて、吐き気をおさえるくすりを使えば、さらに効果があがります。吐き気止めには、座薬や飲みぐすり(点滴中なら、注射薬も使える)があります。しかしこれらは絶対に必要なくすりではありません。

下痢もひどくて回数が多い時には脱水症になることがあります。とくに冬にはやるロタウイルス腸炎の場合になりやすいのです。

しかし不思議なことに私が卒業した頃にはまだひどい患者さんが結構いたのですが、どうも近年は重症者をあまり見なくなってしまいました。経口補液の知識が普及しただけではなく、病気そのものが軽症化しているように感じます。

さて下痢だけでおう吐や吐き気がない時には、イオン飲料を欲しがるだけ飲ませてもかまいません。その後、野菜スープの上澄みとか、うす味のみそ汁とかを少量与えます。油っ気はいけません。また半流動体や固形食を与えるのは、さらに後です。

おう吐でも、下痢でも、あるいは両方の場合でも、経口補液では、初期の水分の与えかたが上手か下手かで、ずいぶんその後の経過が異なります。ところが、 いざわが子がおう吐を始めた時には、なぜか乳幼児用のイオン飲料が手もとにない、そういうことがしばしばです。いつも準備しておくことが大切。

このことは、乳幼児に限らず、年齢のすすんだ子どもさんや、成人についても当てはまります。たとえば宿酔(ふつかよい)。

アルコールを飲みすぎた翌日の朝から頭痛と吐き気に襲われます。私もなんどか経験がありますが、あれは堪らない不快なもの。

原因物質のアルデヒドを、体から早くだしてしまうには、糖分を含むイオン飲料(炭酸の入らないものが良い)を、最初は少しずつ、徐々に量を増やしてゆきます。 途中から吐き気が落ち着いてきても、すぐには中止せず、なおしばらくは飲み続けます。そしてジャバジャバとオシッコをだせば勝ち。前号記事をご覧下さい。

悲しいことに、蔵だしのしぼり酒も、ボルドーの赤も、アイリッシュのシングルモルトも一夜あければオシッコとともに去りぬ…なのです、もったいなあーい。 今や、欲しいのは高級な酒よりも自動販売機のポカリだ…。
しかしそれがない…!ポケーッとしていた。ウッカリしていた。ポケモンだった…? アルコールを多くのんだら必ず宿酔をするという方は、いつもポカリの用意を。

一度でも宿酔のはげしいはき気を経験した方であれば、きっと同じ考えになるでしょう。もう二度と飲まんけんね…と。どうしてフトコロをはたいてまで、頭痛とはき気のためにお酒を飲むのでしょう?そうは思いませんか? しかしふたたびお酒に手をだしてしまうのです。タバコよりマシなごたるけんね、と言いつつ。うん?、脱線しましたね。

さてインフルエンザ騒ぎも、今では遠い昔のことのようになってしまいましたが、そのうち初夏の日差しの頃には、またぞろ夏カゼなるものが登場して、子どもたちにおう吐や下痢や発熱をおこします。

そんな時このむだ話をちょっと思い出して脱水症をふせぐ努力をしてみてください。 ころんでもタダでは起きない心がまえで、育児を楽しんで下さい。 子どもの病気のケアーはどこかできっと役に立ちます。
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