こどもの病気の対応
―病原体とゆで卵―
 「肺炎みたいですね。多分マイコプラズマでしょうね。」と説明しますと、「何ですか、その何とかプラズマというのは?バイキンですか?」と聞かれます。そういう時は、苦しまぎれにゆで卵で説明しています。
 細菌(バイ菌)と呼ばれるものは、殻(から)付きのゆで卵を想像してください。殻付きのゆで卵は、外側から順に、以下のようになっていますね。
 殻に相当する細胞壁(さいぼうへき)の下に、細胞膜(さいぼうまく)という白身の表面のうす皮みたいな膜があり、そのうす皮をはがすと白身である細胞質(さいぼうしつ)が現れ、白身を除いていくと、やっと黄身、つまり(かく)とご対面です。
 マイコプラズマという病原体は、殻無しのゆで卵なのです。 ペニシリンなどの抗生物質は殻をこわすことで細菌をやっつけます。ところが、マイコプラズマは、殻無しでも生きていける特殊な菌なので、殻をこわすペニシリンなどの抗生物質はカラぶりに終わるのです。
 次に、ウイルスという病原体がいます。これは殻も白身もない黄身だけのゆで卵と考えます(正確には、白身少々とうす皮もあるのですが)。 毎年、冬に話題になるインフルエンザも黄身だけなのです。
 最後に白身だけの病原体が異常プリオン。 タンパク質が異常な構造に変化して、悪い性質を獲得したものです。
 異常プリオンに接触した正常プリオンは、構造が変化して異常プリオンに変身します。朱に交わればあかくなる、ということでしょうか。異常プリオンになったタンパク質は、本来もっていた正常な機能を発揮できず病気になるわけです。今のところ有効な治療法はありません。
 ちかごろマスコミで話題の炭疽菌ですが、なんと殻付き卵の外側に厚いてんぷらのコロモがついたような頑丈な構造をしています。このコロモは商品配送用のダンボール箱の役目、つまり中の菌を保護しますので、生物兵器として使われやすいのです。体内で増える時には、コロモを脱ぎ捨て、凶悪な顔つきに変わります。
 バイキンマンの世界には、変なのばっかりゴロゴロしているようにみえるため、できることなら、なるべく関わりをもたないで生活したいと考えがちですが、そういう人生は、現実にはまったく不可能です。
 私たちの暮らしになくてはならない味噌、しょう油、お酒類、その他のじょう造業、酪農など農林水産業、化学・生物・工学など非常に多くの場面で活躍している善い菌もたくさんいるのです。お腹の中にも無数の菌が生活しています。善い菌と悪い菌のバランスがくずれた時が病気になる時だと考えるのが正しいのではないでしょうか?
 さて、マイコプラズマを退治するには、殻ではなく、白身や黄身をやっつける抗生物質を使うと、あっさりコロリと退治できます。
 マイコプラズマの肺炎になって、点滴したり、入院したりと、大変な思いをされたご家族もけっこう多いことと思いますが、せっかくのチャンスですから、バイキンマンの勉強をすれば元が取れるかも知れません。
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