こどもの病気の対応
―夏カゼについて―
園や学校では、夏かぜ(手足口病、ヘルパンギーナ)が流行していますが、夏休みに入ると数日後からパタリと終息します。もともと小児科の感染症の中では、手足口病はもっとも軽いもののひとつですが、まれに無菌性髄膜炎を起すことがあります。

ところが近年は、ズイマクエンより重症である脳炎や、心筋炎、ポリオに似た麻痺を合併したケースも報告され、手足口病は必ずしも軽い病気とは言えなくなりました。いつもより元気がない場合には受診をおすすめします。ヘルパンギーナ(手なし足なし口だけ病)は、ふつう高熱がでますが、たいてい、2日か3日で自然に解熱(げねつ)します。

手足口病とヘルパンギーナは、エンテロウイルスというウイルスで感染します。 エンテロウイルスというのは、警察庁指定広域暴力団のA組みたいなもので、傘下に4つの団体があります。ポリオ一家、エコー会、コクサッキー連合、エンテロ組の4つです。 現在、総数で72番までナンバーがついていますが、正味の構成員数は67名です。

さて、エンテロウイルスとライノウイルス (ふつうのハナカゼ病原体)の違いは何でしょうか?エンテロウイルスは酸性に対する抵抗性があり、また37℃のときにもっとも良く増殖します。つまり胃液のバリアーを通過して、消化管の中で増えることができるのです。 これに対し、ライノウイルスは酸性に対する抵抗性がなく、また増殖の最適温度は33℃ですから、鼻のように温度が体温よりやや低いところで増えますが、鼻汁を飲み込んでも、胃液のバリアーを通過できず、消化管の中では増殖しにくいのです。

ポリオは、抗体がなくても、ほとんどは下痢くらいですが、しかし運が悪いと心筋炎や脊髄性のマヒになり、それらは取り返しがつかないので、生ワクチンが用意されています。最近は、ポリオでマヒしたといえば、ほとんどが天然モノではなく、養殖モノ、つまりワクチンのウイルスによる感染です。ポリオワクチンは生き物ですから、腸の中で、増え続けます。そして、だいたい一ヶ月くらいは便に排泄され続けます。

ところで、生ワクチンというのは、もと極道さんがカタギのフリをしているだけですから、ときどきワルの本性がでてしまうことがあります。つまり、天然モノに還ってしまって、人に病気を起してしまうわけです。このことを「ワクチン株の野生化」と呼んでいます。

それで、赤ちゃんのおむつを交換するお母さん、お父さん(ときには年の離れたお姉さん)たちは、あとできれいに手を洗う習慣をつけておきましょう。いつものクセで指を舐めないように。極道さんが「オッチャン、なめたらアカンで。」と言うのはそういう意味です。

エコーウイルスは、発熱とちょっとした下痢、腹痛などの症状ですが、時には相当のワルもいて、3年前に宗像地区で流行した無菌性髄膜炎(頭のかぜ)を起したのは、エコーA18とエコーA30という組員でした。無菌性髄膜炎になりますと、コメツキバッタを横抱きにしたような姿勢になります。年長児や成人はメトロノームのように揺れます。きついので倒れそうになるのですが、首だけグラっ、とはなりません。後頭部、首、背中が痛いため、頭と体が一体化して、上半身全体で羽子板のように硬直してしまうのです。痛みで、目を閉じてしかめ面です。

コクサッキーウイルスは多芸多才。消化器、呼吸器、皮膚(発疹)、あたま、心臓、スイ臓、など選り好みをしません。風の吹くまま、気のむくまま、どこでも狙ってきます。夏カゼで心臓がやられた方の多くは、ポリオやコクサッキーウイルスによるものと考えられています。スイ臓が炎症を起すと、あとで糖尿病を発症してくることがあります。

夏カゼは、このようにたくさんあります。診察の時「夏カゼですね」と言われたら、「ああそうですか。夏カゼですか。ナーンダ。カゼだって」で満足する方が多いのですが、それでは少し物足りない気がします。 とは言っても「そうでっか。で、どの組員や、ホシは?」などと聞かれても答えられません。「ホシはA組のモンや。」と言うように、「それはエンテロウイルスですね。」としか私の外来ではお答えできないのです。もっと大きな総合病院では、ちゃんと組員の名前まで教えてくれることがありますよ。もっとも「福岡県感染症サーベイランス」という監視システムのおかげで、ある程度、流行状況はつかめます。

読者の方も、おへそ丸出しでエアコンがんがんかけて寝たりすると、寝冷えしたり、ノドがやられます。すると、エンテロウイルスにやられ易くなります。ご注意ください。
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