ふくろう通信1997-5

               一木こどもクリニック便り 1997年5月(通算5号)


黄金週間も過ぎて残ったのは、疲れだけ? これから初夏に向かいますが、高学年児童や中学生では、起立性低血圧の患者さんが増え始めます。朝起きれない、立ちくらみがする、食欲がない、夕方から元気になるが、午前中は無気力でとにかくきつがる、腹痛・頭痛をよく訴える、などの症状が見られます。学校に遅刻するため次第に不登校になる子もいます。その大部分は適切な薬物治療で治ります。こんな症状が子どもさんに見られたら、その目でよく見直して下さい。

[こどもの病気の診かたと看かたC]

こどもさんが何らかの病気になった時に、親の心配と、診察する医師の関心とは、往々にしてズレていることが多いものです。今回は、賢い受診の仕方とはどのようなものかについて、モデルを提示しながら考えてみましょう。

医師:どうなさいましたか。

母親:熱があるんです。昼に保育園から、「39℃の熱がある」と電話があって、
   もうびっくりしまして、すぐ 迎えに行って、その足でとんできました。カゼでしょうか?

医師:(診察の後) カゼでしょうね。お薬だしておきましょう。

母親:あのう、あした来れないので、できたら3日分出してもらえると助かるんですが。

医師:ハイハイ、3日分いいですよ。それと熱さましのお薬、何か持ってます?

母親:ありません。座薬、いいですかね?

医師:ハイハイ、じゃ座薬3回分ね。

母親:助かります。あのう、おふろはどうですかね?

医師:ウーン、おふろねえ、夕方、もう一回お熱を計って、なかったら入れても
   いいんじゃないですかね。 でも熱がまだ残ってたら、無理しちゃだめですよ。

母親:ハナミズでてますけど、いいですかね。

医師:まあ、ハナミズくらいいいでしょう。 あっ、それから《カゼは万病のもと》って
    言いますからね、気 をつけてね。じゃ、お大事に。

コメント

こういう会話は、どこの診察室でも日常茶飯事に耳にします。どうして、このような内容のない受診になってしまうのでしょうか。折角病気になって、苦しい思いをしているのに、それが次に病気になった時に何の役にも立たない、そんな発展性のない受診の典型例です。会話がこういう展開をとげてしまうのは、患者(家族)の側にも医師の側にも、改めるべき理由があるわけですから、その理由をいくつか列挙してみましょう。

(1) このお母さんは、子どもさんの症状に対して、反射的に行動しています。

熱 → 大変、脳が煮える(?)、→ 病院が閉まる前に受診しなくっちゃ →フーやれやれ、間に合っ て良かった、 → 診察、薬、3日分、3日分。
今回、幸いに数日で治ったとしても、次回また飛び込んでくるでしょう。そして、夜間に発熱したら、すぐに急患センターに直行するでしょう。けいれん(ひきつけ)を起こしたら、すぐに電話に飛びついて救急車をよぶでしょう。すべてが反射的です。
子どもさんの全身状態(くう・ねる・あそぶはどうか)を観察した形跡がありません

(2) 原因を問わないこと

患者さんは、医師に対して常に原因を尋ねます。ところが、最初に診察した時点で目前の患者さんの病 気が、「カゼ」であると絶対の自信をもって断定できる医師は、おそらくいないでしょう。もちろん、 最初からはっきりと断定できる病気もあります。たとえば、水痘(みずぼうそう)、手足口病、とびひ、 数日たって症状の出揃った麻疹(ハシカ)、白色便の下痢症(冬季下痢症、大部分は、ロタウイルス感 染症)など。原因を知ることがどうしても必要であれば、種々の検査をしないといけなくなります。 ところが、実際の日常臨床では、多くの患者さんの診療を短い時間でこなしていかなければなりません から、ほとんど診察だけで済ますことになります。

医師は、原因(病因)については、診察結果、病歴聴取、その他、地域の疫学情報(ある感染症の流行状況) などの情報を総合して、推定していくわけですが、この原因(病因)診断というのは、多くの患者さんに とって、案外記憶に残らないものです。長男がハシカになって、恐い思いをしたお母さんが、次男の時 には慌てないで済むかというとそうではありません。もう数年前のことはすっかり忘れてしまって、熱 でびっくり、発疹でびっくりして、医師から「ハシカでしょう」と言われて初めて、長男の時のことを 思い出すのが実際でしょう。 要するに「この病気は何か、何故こんな病気にかかるのか」と、そうい った発想で、子どもさんの病気をとらえている限り、毎回同じことのくり返しになってしまうのです。

患者さんにとってもっとも役にたち、次に病気になった時に、今回の経験が教訓として生かせる情報と いうのは、障害部位の推定(局在診断)と、病気の程度の判断法(機能診断、重症度診断)なのです。この 二つは、今回の病気に対する説明を受けることで、次回の病気に役立ち、兄の受診の経験が弟の時に想 起されます。すなわち学習効果のある、発展性のある受診になり、病気をしたことがムダになりません。 私は、パソコンの画面で解剖図を用いて、局在診断の説明をしていますが、障害部位の推定にもっとも 役にたつ情報は病歴です。これについては、次号で解説する予定です。

重症度診断は、これまでに何度もこの通信でお話してきましたが、くう・ねる・あそぶで判断します。 これは、あらゆる症状に通用します。くう・ねる・あそぶが悪くなっている時には、病気の勢いは強く なりつつあります。このような時には、発熱の有無、熱の高低にかかわりなく、また症状の種類にかか わりなく、おふろは控えます。外出・登校・登園もひかえます。3日分の薬を貰っていても、翌日(場合 によっては、深夜でも早急に)もう一度受診しないといけません。「あの時、医者は、カゼです、と言う から安心していたのに、熱が続くから、どうもおかしいと思って別の病院に行ったら肺炎です、と言わ れた」あるいは、「脳炎だった」などということもありえます。

しかし、医師が24時間付きっきりで観察できるわけではありません。どうしても家族に看病してもらわ ないといけません。医師が、「この薬をだしますから、これで様子を見て下さい。」と言う時に「様子 を見る」ということの意味は、「くう・ねる・あそぶの変化を見るように」と言うことなのです。決し て「熱が39度になったので座薬を使ったけれど、あまり下がらないまま、夜40度になったので、もう 一回座薬を使ったけれど38度にしかならないまま、今朝は、39度あります。」などということを、細 かく報告してもらいたいわけではありません。体温の高低にこだわるよりも、くう・ねる・あそぶの変 化を朝、昼、夜と三回くらいはチェックすることがよほど大切で、有益です。看病する立場の家族の方 は、一回子どもさんが病気をするたびに、このくう・ねる・あそぶ原則を実際に使ってみて(つまり練習 問題として、解いてみる)、それがどれほど有効な観察法であるかを実感していただきたいと思います。 (くう・ねる・あそぶの一覧表はふくろう通信の2号に載っています。)

くう・ねる・あそぶ原則を使いこなせるようになれば、ある症状に対して、いつ受診すればよいかの目安になります(ふくろう通信4号)。日常活動の制限をどうすればよいかの判断の参考になります。われわれ医師にとってみれば、現在の治療法でよいのか、変えるべきなのかの判断もできます。何か最初と違う異常な事態が起こっているのではないか、検査をしてみようか、などの判断の拠り所ともなります。つまり、患者、医師双方で使えるきわめて有効な指標なのです。

病気の変化を見落とすこともほとんどなくなります。肺炎、脳炎、肝炎、心筋炎なども、最初はどれも、カゼのような症状(医学用語では、上気道炎様症状というもの:ハナミズ、発熱、頭痛、悪寒、咳漱、全身の違和感、食欲不振、あるいは、下痢、悪心(おしん)、嘔吐など)で始まります。しかし、これらの病気では、必ず途中からくう・ねる・あそぶが悪くなっていきます。ゆっくりと変化していくこともあれば、 数日間は変化なく、突然急変することもあり、また最初からあれよあれよという間に悪化していって、ケイレン、意識障害などを呈する劇症の経過をとることもあります(例えば、急性脳症など)。 くう・ねる・あそぶが悪くなったら、その時点で再度受診することが大切です。つまり、 病気は時間とともに変化していくものですから、最初に医師から受けた説明にこだわらずに、くう・ねる・あそぶの変化をより重要な判断材料にして、家族が自己の責任において判断をしなくてはいけないのです。

(3)医師は、患者さん側に、看護上の最重要ポイントを指導しなければならない。

大学病院や総合病院の外来のように、紹介患者さんをもっぱら相手にするような立場の医師は、原因診断を もっとも重視しなければなりません。病気の原因をきちんと突き止めて、それに対する過不足のない最適 治療をおこなう義務があります。また紹介した医療機関に対しても、原因を究めて納得のいく返事をするこ とが礼儀です。しかし、個人の無床診療所では、原因追求にエネルギーを費やすよりも、重症度診断と障害 部位の診断とを優先させて、くう・ねる・あそぶの経過を観察するように、患者(家族)に説明することが、 より重要であると私は考えており、日々の診療でもそのことを一貫して、強調しております。「カゼは万病 のもと」であるとか、「カゼをひかせないように」などといった、何の役にも立たないことは言わないよう に心がけています。次号では、望ましい診療風景のモデルを提示して、この問題を再考します。皆さんも、 どのような「問いかけ」が、医師から最も有益な情報を聞き出せるか考えて下さい。

患者さんの側が、医師につたえるべき情報

(1) 主訴(しゅそ:いちばん肝腎の症状)。何が(what)に相当
(2) その主訴の、これまでの経過。いつから、どのように
(3) 全体的な評価の報告(食う・ねる・あそぶ
(4) 薬物アレルギーや、その他の特異体質の有無、現在内服、または使用している薬物

医師の側が、患者さんに是非伝えないといけない情報、および聞き出すべき情報


(1) 障害の原因の推定、考えられる病名―家族歴・治療歴の問診結果の評価→病因診断
(2) 障害部位の判断 → 局在診断
(3) 障害の程度(重症度)の判断 → 機能診断・重症度診断
(4) 食事・入浴・一般的活動・登校/登園の制限の有無
(5) 治療内容についての説明 経過についての見通し → 予後判断

【編集後記】

ふだんまじめに勉強ばかりしておりますので、先月から少し息抜きをしております。 次回でいちおうアトピーの話は完結の予定です。 (文責 一木貞徳)
発行:一木こどもクリニック 1997.5.6
住所:福岡県宗像市東郷字下ノ畑394 Tel 0940−36−0880

【アトピー性皮膚炎についての鼎談(ていだん)そのA】

出席者:藪野フクロウ、 肥やし家かつぎ、甲斐乃カク
     (キャラクターについては、前号解説をご覧下さい)

藪野フクロウ:ふぁー、良く眠らせていただきました。フクロウは夜起きて仕事をする、などと世間様はお 考えのようですが、「徹夜で猛熟睡」が私のモットーでして。まったくフクロウの風上にもおいてもらえな い、と常々反省しております。ところで前回はどこまでお話したんでしたかな。

甲斐乃カク:アトピーについての常識の間違いそのC、皮膚のバリアー障害のところだったわね。IgAが何 とかと。ワダス、あれから猛勉強さしだのっす。頑張ったのっす。ハエー、アドビーってムッズカシンダ ワネー。ワゲさワガンネッス。

藪野フクロウ:ンダナッス。ズヅノトコロ、ワダスニモ、まんだナヌガ何ダガサッパリナンダベ。あれれ、 ズーズー弁が伝染しちゃったですな。

肥やし家かつぎ:早う始めたらんと、また今月も終ってしまうで。

藪野フクロウ:少年老い易く学成り難し、一寸の光陰なんとやら。ウーム、こんな無駄話をしている暇はな い。では今月も頑張って続けましょう。図を見て下さい(復刻版では省略)。アトピー性皮膚炎の診断に重 要な皮膚の変化は、3つあります。@屈曲部の病変、A苔癬(たいせん)化病変が見られる、B全身に病変 が見られる、以上の3点です。

肥やし家かつぎ:それは前回も聞いたんやけど、よう分からんかってん。そこからつまずいたんや。もっと 親切に詳しゅう教えてんか。

藪野フクロウ:質問する時には、手を挙げましょう。それから敬語を使いましょう。屈曲部の病変というの は、耳たぶの周辺、首のまわり、わきの下、肘や膝の裏側、手首、足首、陰部などにジクジクあるいはカ サカサした湿疹が見られることを示しています。この屈曲部の湿疹は特に痒みが強いのです。本の背表紙 と同じで、折れ曲がる部位は、伸縮回数も無数ですから、いったん傷ができると回復も大変です。

甲斐乃カク:ハーイ、セーンセー、質問。耳は動かないのにどうして切れるの?

藪野フクロウ:耳を動かせる人は結構いますよ。あそこは、血のめぐりが悪くて体温が低い部位だから、傷 の回復も遅れるんですね。耳なし芳一だって、あそこに湿疹があってお経の札が貼れなかったんじゃない でしょうか。

肥やし家かつぎ:またわてをかついどるな。耳なし芳一がアトピーやったとは初耳や。だいたいあんたの言 うとることは、どれもこれもウソっぽいで。

藪野フクロウ:ホーホー。

肥やし家かつぎ:何やねん、そのホーホー言うんは。

藪野フクロウ:フクロウの鳴き声、いや泣き声です。あんまり私をいじめないでください。カウンセリング を受けないといけなくなるじゃないですか。

肥やし家かつぎ:ほなら、これからは話半分と思うて聞いたるわ。続けていいで。

藪野フクロウ:苔癬(たいせん)というのは、岩や地面に張り付いたコケのことです。いわゆる地衣類という やつですな。患者さんの皮膚のあちこちにコインのような、丸く厚みのある、ちょうどマルボーロの皮の ように肥厚した皮疹が見られるようになります。これは同じ部位にくり返し湿疹を起こす刺激が加わって 生じるものですから、慢性の湿疹であることを意味します。また皮膚の線維を作る細胞の増殖性の変化が 起きているわけで、一朝一夕には治らないことをも意味しています。

甲斐乃カク:今度から丸ボーロが食べられなくなったワネ。ワタシ好きなのに。

藪野フクロウ:そして、患者さんの皮膚をよく見るとほぼ全身の皮膚がカサカサしており、まともな皮膚は ほとんど見られないわけで、これがB全身に病変が見られる、ということなのです。これらの三つの病変 の分布や程度は年齢によっても変化してゆきます。わが家のアトピー息子たちも、この頃は、見かけ上は 全身ツルツルで、おしりの付近だけカサカサが残っております。

甲斐乃カク:ワタシのおしりは、すべすべツールツルよン。さわって見るウ?

肥やし家かつぎ:エー加減にせな怒るで、ホンマ。

藪野フクロウ:では、次にアトピー理解で最大の難関、免疫の問題に移りましょう。アトピー性皮膚炎の患 者さんでは、一言で表現しますと、体の内部では免疫過剰反応が見られ、皮膚つまり体の外側では、逆に 免疫不全の状態が見られるのです。

甲斐乃カク:家の中では、めちゃ元気でいばってるのに、外にでるとコソコソしてる、うちのお父さんみた いやわー。 藪野フクロウ:ホッホッホー、実は私もそうでして。

肥やし家かつぎ:こらこら、ちょっと油断するともう脱線や。あきれたおっちゃんやなあ。今日は何として もアトピーのことを頭にたたきこんで帰るつもりなんやで。

藪野フクロウ:どうでもいいようなことを叩きこまれる頭の方も可哀相ですな。アッ、いや今のは独り言で して。体の内部で見られる免疫の過剰反応というのは、前回お話しましたように、免疫グロブリンの中の IgEという物質が、正常人にくらべて、出来やすい体質であるということなのです。

甲斐乃カク:免疫グロブリンて全部で5つあるんでしょ?ワタシ、調べちゃったんだ。健康雑誌なんかを見 てるとチャーンと載ってるワよん。

藪野フクロウ:大まかに分けると5種類に分けられます。このうち、IgDというのは、まだ詳しい性質は解 明されていません。残りの4種類の免疫グロブリンの分布は、体内でほぼ決まっています。つまり、それ ぞれの守備範囲が決まっているわけです。ちなみに、Igというのは、免疫グロブリン(Immuno-globulin) の頭文字です。水ぼうそうや、おたふくかぜにかかった後に出来る抗体といわれるものが、IgMやIgGと いわれるものです。この両者は、血清中の主要な免疫グロブリンです。 アレルギー反応をひきおこす、あまり歓迎されない抗体がIgEですね。このIgEは、おもにマスト細胞に 結合した形で、気道、消化管、そして皮膚に分布しています。最近では、IgGの一部もアレルギー反応に 関係していることが分かってきました。 母乳の中に含まれているのがsIgAというものです。これは、血液の中にあるIgAに別の部品がくっつい て作られるのですが、血液中のIgAの役割は、sIgAを母乳中や消化液、唾液、鼻汁中に分泌することで すから、IgAと言えば、すなわちsIgAのことを指すわけです。 そして最近、皮膚にもsIgAが分泌されていることが判明したというわけです。 つまり、アトピーの場合には、体の内部で問題になるのが、IgE(一部はIgG)で、体の外部すなわち皮膚 の表面で問題になるのが、sIgAだというわけです。

甲斐乃カク:ちょっと待って。せっかくお勉強したんだから、これからは、ワタシが解説してあげるワよん。 えーと、確かsIgAは、細菌やカビなどの攻撃から皮膚を守ってくれるバリアーの役目をしてたんだっけ。

藪野フクロウ:ピンポーン。教え甲斐のある生徒をもつとうれしくて泣けてきますよ、甲斐乃さん。

甲斐乃カク:そっただ誉められっだば、ワダスこっ恥ずかしぐでなんねダ。んだどもナーンド勉強さしでも、 やっぱ難シンダネエー。アドビーってもっどカーンタンなもんだと、ワダス思ってたダアー。

藪野フクロウ:いえいえ、想像以上に奥の深い病気ですよ。ナメテはいかん、掻いてもいかん、叩いてもこ すってもいかん、まことに厄介な病気でして。

甲斐乃カク:それで、sIgAの量が少ないために、皮膚のバリアーがうまく機能しなくって、水いぼやら、 帯状ヘルペスやら、黄色ブドウ球菌やら、わけのわからんものがいろいろできるわけよネ。

藪野フクロウ:とくに黄色ブドウ球菌は、アトピー性皮膚炎で皮膚が荒れた結果ではなくて、最近では、ど うもアトピーそのものの皮膚症状の成立に関与しているのではないか、と言われているわけですな。

肥やし家かつぎ:そこがどうもよく分からんのや。

藪野フクロウ:菌がそこに住み着いているだけ(コロナイゼーション)のものと、菌による病変形成(膿など) とあります。膿のでている病変部には白血球が集まっていて、それが壊れたときにいろいろな消化酵素を 放出します。それによって皮膚が直接的に障害されて、荒れるわけです。しかしもっと重要なのは、菌の だす毒素自体なのですよ。黄色ブドウ球菌の毒素としておもなものは、α毒素とエンテロトキシン (TSST-1)とがよく知られています。α毒素は皮膚の表面に放出されて、直接に皮膚を障害します。エンテ ロトキシンは、もっと複雑な関与をしています。ちなみにエンテロは腸の意味で、トキシンは毒素のこと です。

肥やし家かつぎ:菌だけやともの足らんゆうて毒まで出そうゆうわけやな。相当な悪やで、その何たら菌は。

藪野フクロウ:ちゃんと黄色ブドウ球菌と言ってあげないと、菌も可哀相ですよ。

甲斐乃カク:そのエンテロトキシンって、どんな複雑なことをしているの?

藪野フクロウ:エンテロトキシンというのは、黄色ブドウ球菌が、われわれの体の内部にまで侵入してきた 時に、いろいろなきっかけでどっと放出する、とてもいやな毒素なんです。アトピーの患者さんでは、エ ンテロトキシンに対するIgE抗体ができてしまって、それがまず悪いんですね。IgE抗体ができると、何 でも過剰に反応してしまうわけですから。しかしもっと厄介なのが、エンテロトキシンによる、スーパー 抗原としての作用なんです。

甲斐乃カク:ハーイ、質問。それ、スーパーで買えるの?

藪野フクロウ:スーパーでは、ブドウは買えますが、黄色ブドウ球菌とかエンテロトキシンとかは、もとも と食品売り場で見つかってはならんものですよ。営業停止になります。まあ、スーパー抗原の話は大変む ずかしいので、次回もう一度お話いたしましょう。それと、肝腎の治療のことまでいきたいんですが。

肥やし家かつぎ:それを待ってたんや。大体おっちゃんの話は、難しすぎてついていくのが大変なんや。せ やけど結構面白いところもあるよってに、ガマンしいしいついてきとるんや。この次もつきおうたるさか い、きっちり決めたれよ。

藪野フクロウ:(震えながら)ひょっとして、肥やし家さんは、極道一家の御出身で?

肥やし家かつぎ:今ごろ気づきよったんかい。医者も極道もそない変わらんのんとちゃうか。道を極めた者 同士や。アンバイ付き合うたりいや。ほなら頼んだでえ。

【編集後記
(淀川長治さんの口調で)イヤー、びっくりしましたねえ、驚きましたねえ、あの肥やし家かつぎさん、実はヤクザだったんですねえ。そして極道さん、実は、道を極めた者という意味だったんですねえ、ホント、もう、すごい大発見ですねえ。アトピーのお話、むずかしくて、そしてとっても恐い話なんですねえ。来月どうなるんでしょうねえ。ハイ、それじゃ皆さん、さいなら、さいなら、さいなら。
  

発行:(医)一木こどもクリニック (責任者 一木貞徳) 1997.5.6 
住所:宗像市東郷下ノ畑394 TEL 0940-36-0880

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