ふくろう通信1997-6

               一木こどもクリニック便り 1997年6月(通算6号)


そろそろ梅雨入りでしょうか、最近いろいろな感染症がテンコ盛りで流行っていて、まるでお子様ランチのメニューのようです。ハシカ、風疹、おたふくカゼ、水痘、溶連菌感染症、夏カゼの仲間、リンゴ病、etc.アメリカでは、MMRVという4者混合ワクチン(ハシカ、おたふくカゼ、風疹、水痘)があるのですが、日本では以前あったMMRワクチンの失敗に懲りて、MMRVの導入には時間がかかりそうです。行政が子どもたちの立場に立っていないからでしょう。

     [こどもの病気の診かたと看かたD]
              受診のあり方について考える

赤ちゃんが一人前の成人になるまでには沢山の病気をします。予防接種や乳児健診も含めると、お母さんは、なんども小児科医院や保健所に足を運ばなければなりません。すなわち、もろもろのやっかいごとすべてになんとか付き合い終って、ようやく一人前のお母さんになれるわけです。そんな病気のことをあれやこれや心配していると、だんだん子育てがうんざりしてきたり、不安で不安でしようがなくなってくることもあるでしょう。子どもさんが一人でもそれだけ大変なのに、2人め、3人めと増えてくると、母親は一日中心配で頭はいっぱいです。とても自分の時間はとれません。まじめで勉強熱心なお母さんほど、育児書に書いてあることを「あらかじめ」マスターしておこうとするからです。ところが、病気は無数といってもいいほどにあります。症状も千差万別です。さらに病気の成り立ち(発症原因)、成り行き(経過)には、個人差、年齢差があります。「あらかじめ」マスターすることは不可能ですし、ナンセンスなのです。

さて、病気に罹った後で、医師からその病気の説明を聴いて「そーか、これがリンゴ病というやつか、そう言えば、育児書に書いてあったし、最近新聞でも読んだぞ、よし、この次は、バッチリ当ててみせよう」などと待ち構えていても、もうその子は罹らないわけで、要するに一回きりの病気については、細かい知識はあまり役に立ちません。そういうことを微細に説明すると、「あの先生は詳しく病気の説明をしてくれる」と有り難がられる傾向がありますが、そういう説明は新聞の医学記事で十分ですから、コピーを渡して済ませております。

私が、この通信や日常の診療で何度もくり返して強調しているのは、そういう個々の病気の説明ではありません。すべての病気・症状に通用する原則、家族でも判断を誤らない診かたと看かた、それを一回聴いたら二度と忘れない記憶法で説明しているのです。

それが、すなわち「食う・ねる・遊ぶ」です。ほかにも一回聴いたら二度と忘れない記憶法があります。例えば「下痢便で問題になるのは、赤・白・黒」、「熱の高い低いと病気の重い軽いはぜんぜん関係なし」「高熱があっても首がたっていれば大丈夫。40度の時には、首が倒れていても38度になると再び首が立つ、すなわち脳は大丈夫」、「獲物をねらうタカのようにキョロキョロしていたらOK、首をひねられたニワトリのようになっていたら受診する」「熱があっても、オシッコ出るまで座薬は待とう」「病人診るなら端っこ(顔色・目つき・呼吸、手足の冷たさ、オチンチン=オシッコの出かた)診ようね、お母さん」etc. 小児科医になってから20年間ずっと考え続けてきたことは、どう説明したら患者さん(お母さん)に一発で理解してもらえるか、ということでした。結局、上述のように、キャッチコピーで記憶するのが一番、という結論に達したわけです。なぜなら育児書の知識よりも、このような理解のしかたのほうが、実際に病気になった時にはるかに有用だからなのです。

私の説明を受けられた方は、何時も「○○のひとつ覚え」のように「食う・ねる・遊ぶはどうですか」と尋ねるものですから、きっとうんざりしたのでしょう。この頃は先手を打って、「食う・ねる・遊ぶはいいんですけどね、でもずっと咳が続くんですよ」とか、「三拍子は揃ってるんですが、やっぱりハナミズが止まらなくて」というように、なかなか手強くなっています。 しかしそれこそ私の思うツボ、つまりこのお母さん方は、今やご自分の子どもさんの病気を通して、病気の診かたと看かたをマスターしつつあるわけです。上のようなケースは、仮に放置しても大したことはありません。実際、気にしないでほうっておく方も多いでしょう。 ところが、「3日後に来て下さい」と言っていたのに、翌日「食わない・寝ない・遊ばないのでまた来ました。」というケースもあります。このケースでは、脱水と低血糖を合併していました。こうなると子どもさんの病気から大切な原則を学習して、転んでもタダでは起きなかったわけですから、満点ママと言えます。しかしそれだけの効用ではありません。

患者さん自身にとっても、私にとっても大切なことは、一人当たりの診療時間の短縮すなわち待ち時間の短縮です。前号の通信で書いておいたように、「熱が昼間37度で夕方38度で、夜40度になったので、心配で座薬使ったら、今朝は38度でした」というようなことは、大体(それが大変大事なことだと思いこんでおられるお母さんや、お祖母ちゃんには失礼なのですが)どうでもいいことで、すなわち病気の軽重と熱の高低はまったく相関しないという原則に照らしてみれば、細かい体温の経過報告は不要です。 「昨日の昼から熱があり、最高40度です。三拍子のうち、食うが悪いですが、他の二つは、解熱剤を使った後はまあまあです」という情報の方が、はるかに価値が高いのです。

さて、こういうと医師の側からは反論がでるでしょう。「熱型は、病気の原因を考える上で大変重要なデータであるのに何ということを言うか。」「自分は患者さんに体温をグラフに目盛るように指導している。おまえの言うことは、診断学を無視した暴言ではないか」など. 私は、体温の経過を細かくプロットさせるような作業は、患者さんに指導すべきではないと考えていますから、製薬メーカーが提供してくれる体温の記録表などを患者さんに渡したことは一度もありません。そういうことをするから、お母さんの頭の中は「熱・熱・熱」と、まるで熱病のようになるのです。他に大切な観察点がいっぱいあるのに目が向かないのです。

そもそも私が強調していることは、「病気の重症度をいかに判定するか、今受診するべきか、明日でもよいのか、あるいは、受診しなくてもよいのか」を判断するための目安を、お母さん方に是非ともマスターして欲しいということなのです。「どんな病気なのか、なぜこんな病気になったのか」を問うことは、予想以上に答えにくい、回答困難なことが結構多く、あえて回答しようとすると「見てきたようなウソをつく」ことになりかねないからなのです。

「なぜうちの子が喘息になったんでしょう」
「なんでうちの子だけこんなにカゼをひくんでしょう」
「どうしてこの子は、カゼをひくといつも中耳炎になるんでしょう」

こういう質問にそれらしく答えようとすると、医師の側もどこかでボロがでますから、都合の悪いことはすべて「体質」「家系」ということにしてしまうのです。究極の答えは、 「そりゃあ、お母さん、お子さんはそういう体質なんですよ、体質。ネッ、お母さん、あなただって鼻詰まりません?やっぱりネッ!つまりは、ハナづまりの体質なんですよ。エッ?ダンナも詰まる?ナーンダ、そんならそうと早く言ってくれればいいのに。だったら、それはお宅の家系ですよウ、カケイ。ハッハッハ、イヤー、納得、納得。」

「熱の出やすい体質みたいですねえ。お母さん、あなただって、子どもの頃はしょっちゅう熱だしてたんでしょ?それですよ、それ」
こういうツマラナイ問答のいきつく果ての愚問・愚回答がまた恐ろしい。
「先生、体質を変えるにはどうしたらいいんですか」
「そうですねえ、まあとにかくなんとか体を鍛えて、体質改善の努力が必要ですねえ」

まるで赤字企業の社長と税理士の問答みたいだと思いませんか。

こういう結局なんの役にも立たない問答で貴重な診療時間がどんどん流れてしまうことは、順番待ちをしている次の患者さんにも大変迷惑なことです。だから「なぜ」「どうして」ということは、私の外来では問わないで欲しいのです。問われても満足な答えはできません。もしも一見納得できそうな回答をしてみせたとしたら、それは「見てきたようなウソ」にならざるを得ないのです。

「先生、どこでウツサレタんでしょうか?」
多分クラスの中にズーツト菌を持ってる友達がいるんでしょうね、きっと
「うち、誰もカゼひいてないんですけどねえ」
「カゼのウイルスなんか、その辺にうじゃうじゃいるんですからね」(まるで蝿みたい!)
「どうして中耳炎になるかですって?いっぺんなったらクセになるんですよう。エッ、今度が初めてなの?だったら、この次からね、ホント、繰り返すんだから。いやですよねえ」 落語を聴いているようですが、しかしこのような説明で何となく納得してしまう、と言うよりも丸めこまれてしまう患者さんは、結構多いのです。理由は「なぜ?」と問うからです。

診察の後で、私が説明していることは、おおむね以下の内容です。

1) 患児の病気は、「うつる」タイプか、それとも「うつらない」タイプか
   (詳細は、次号以下で説明したいと考えております。)
2) 大体どの部位がやられているのか(パソコン画面で解説)
3) 重症度は、軽・中・重症のどれか
4) 考えられる治療法
5) 選択したい(つまり、お勧めの)治療法と、薬の副作用(場合により) どんな場合に、夜間急患センターを受診するべきか?
6) 治るまでの見通し(経過予測と予後)、起こりうる合併症

何度か私の外来を受診された患者さんは、私の診療のスタイルを理解されているようですから、このクリニックにおける「場」「雰囲気」「流れ」が自然と身についています。この「雰囲気」は、医師を含めた診療スタッフ全員と患者さんとが無言のうちに作りあげていく、各診療所ごとに独特のものです。ですから、最初のうちは私のスタイルが飲み込めず、「場」違いな感じを受けて戸惑われる方も多いはずです。患者さんが「流れ」に乗れない時には、診療スタッフの方も「流れ」が止まったように感じたり、違和感を感じるものです。診療全体がスムーズに「流れ」、待ち時間の短縮が実現するように、私が目指している小児医療に対する姿勢をご理解いただき、全体の「流れ」に乗った診療に参加して下さることをお願いいたします。

【お知らせ】 院長不在時間・休診日の案内は、毎月約2週間前までに掲示しておりますが、緊急の不在時間帯が生じることもありえますのでご了解下さい。診療時間以降は、クリニックを離れるため留守電になり、翌朝までは連絡ができなくなります。受付終了から急患センター診療開始までの空白時間帯に、緊急に診療を受けるべき事態(意識障害、呼吸困難、外傷、熱傷、ひきつけなどの、食えない・寝れない・遊べない事態)が発生した場合には、本通信1月号(受付にバックナンバーがあります)でご案内しました病院などへお問い合わせ下さい。発熱自体は決して緊急事態ではありませんので、水分・糖分補給と保温、安静、排尿の維持に努め、熱さましの貼付(ちょうふ)薬や座薬などで対処し、翌日午前中に受診されるようにお勧めいたします。

【編集後記】  次号では、うつる病気とうつらない病気の特徴と対処の仕方について、気管支喘息を例にとって解説の 予定です。 (文責 一木貞徳)
発行:一木こどもクリニック 1997.6.5
住所:福岡県宗像市東郷字下の畑394 0940−36−0880

【アトピー性皮膚炎についての鼎談(ていだん)そのB】


出席者:藪野フクロウ、 肥やし家かつぎ、甲斐乃カク

甲斐乃カク:そろそろこの座談会も終りが近づいてきたわね、かつぎさんの前科も割れたことだし。ふくろ うのセーンセー、恐くて眠れんかったんとちゃう?

藪野フクロウ:春眠どころか年中暁を覚えずです、ホーホー。

肥やし家かつぎ:わけのわからんおっちゃんやな。そんなことより、今日はこれまでの総復習をしてもらい たいんや、あんじょう頼むで。

藪野フクロウ:今日の話しを理解していただくためには、少なくとも前号までのお話をもう一度読み直して いただきたいです。ホーホー。

甲斐乃カク:からだの中では、アレルギー反応つまり免疫過剰で、外側では、免疫不足だったわね。アトピ ーって、ぜーんぶアレルギーで説明されるもんだと思ってたわ、どうしてそんな思い込みをしてしまった のかしらね。

藪野フクロウ:グッド・クエスチョン。実は、以前から小児科医たちは、からだの内部を診るくせがあって、 アトピーの患者ではIgEの過剰産生が見られるものですから、これが第一原因であろうと考えてきたわ けです。ところが、本来皮膚そのものを診るのが専門の皮膚科医の場合には、IgEの過剰産生以外に、皮膚局所で何か別のメカニズムが起こっているのではないか、と考える人が多かったわけですね。そのこと が、それぞれの専門における治療法の違いに反映されていたわけです。

甲斐乃カク:同じ病気なのに、小児科医と皮膚科医とでは、考え方が違うの?

藪野フクロウ:そうです。からだの内部の異常に主な原因を見ようとした小児科医たちは、IgEの過剰産生 をひきおこす原因物質、すなわちアレルゲンをからだに入れなければよいのではないかと考えたわけです。 また一部の原因物質に対しては、IgEの他にIgGも過剰産生されることが分かっていますが、ともかく原 因になるものが卵や牛乳などの食品であれば、それを控えさせる。原因がハウスダストなどの環境物質で あれば、環境整備をしてもらう。こうして一定期間、原因となりうる物質が体内に取り込まれない状況を 作っておけば、徐々に過剰反応のもとになっているIgE(一部IgG)の産生が減ってくるのではないか、 と期待されたわけです。

甲斐乃カク:原因物質って、つまり血液中のIgEが高い数値を示す物質のことなんでしょ?でもアトピーっ て血液だけで分かるの?

藪野フクロウ:だいたい分かります。ただ100%ではないんです。血液検査(アレルゲンテスト)では数値 が低くても、湿疹を起こす物質もありますし、逆にIgEの数値が高いのに、それを食べてもさわっても特 に何も起こらない人もいるんです。

肥やし家かつぎ:知り合いの娘がアトピーや言われて、小児科で「あれ食うな、これも食うたらでけん」、 何やごちゃごちゃ言われてやで、イモしか食うもんあれへんゆうてバアサン怒っとったでえ。まるで戦時 中の暮らしや言うて、えろうぼやきよったわ。ほなら何か、小児科いうんは、他人のめしにまでケチつけ るんかいな。

藪野フクロウ:別にケチをつけるわけではありませんが、食べると明らかに湿疹が悪化する食品に対しては 一定期間、制限もしくは禁止をします。このことを制限食療法、あるいは除去食療法と言うわけです。た だし、絶えず栄養全般に十分な目配りが必要ですよ。成長期にある子どもの場合、特定の食品をまったく 禁止し続けると、その食品に含まれている栄養素の欠乏をきたしたり、年齢の低い子どもさんでは、さら に重大な栄養障害すなわち成長の停止を引き起こしかねないため、小児科医の中にも、除去食療法に対し てはむしろ慎重論が多いのです。ただ実際には、外用薬や、その他の治療法だけでは痒みが抑えられない 患者さんがいて、やむなく必要悪として認めている場合が多いのです。除去食療法は、他に方法がないひ どいアトピーで、原因物質あるいは悪化因子がハッキリ特定の食品であることが判明しているか、きわめ て疑わしい場合にのみ試みられるべきでしょう。

甲斐乃カク:うちかて、好きなもん食べれへんのやったら、死んだ方がましやわ。

藪野フクロウ:ですから、一定期間、だいたい半年とか一年とか期間を限定して除去しよう、そのうちにそ の除去された食品に対して、特異的に過剰反応する血液中のIgE抗体がだんだん減少してくるのではない か、と期待して慎重に行うわけです。

甲斐乃カク:しばらく除去食でガマンしてたら、湿疹も良くなって、後は元の普通食に戻しても大丈夫なの? もうアトピーひどくならんの?

藪野フクロウ:劇的に症状が改善する患者さんもいますし、なかなかうまくいかない患者さんもいます。ア トピー性皮膚炎の患者さんは、年齢が思春期にさしかかると軽快ないし自然治癒する場合があるので、要 するに年月が経つのを待つわけですね。除去食療法を止めた後にぶり返しがない患者さんもかなりいます が、そういう例では、一定期間だけ実施した除去食療法の効果が持続しているのか、それとも治るべき年 齢に達したから自然に軽くなったのかはっきりしない人もいるのです。

甲斐乃カク:ちょっとだけガマンしてたら、必ず治るよ、って分かってたらワタシもガマンできそうだけど、 うまくいくかどうか分からんし、ひょっとしたら栄養失調になるかも知れん、なんて言うんやったら、や っぱり止めときますってなるわね。

藪野フクロウ:もちろんいきなり食事制限を開始するのではなく、薬物療法が先ですね。薬を使う目的は、 IgE抗体の産生を抑制することです。アレルゲン(原因物質)が、IgE抗体に結合するのを妨げる薬、あ るいはIgE抗体がきな粉のようにまぶされているマスト細胞を不動金縛りにするような薬もあります。そ れからマスト細胞がヒスタミンなどを出してしまった後で、そのヒスタミンの作用をブロックする薬もあ ります。とにかくIgE抗体の悪い作用が発揮されないようにしてやれば、アトピー性皮膚炎に特有の痒み と湿疹は、理屈上はゼロになる筈ですよね。ところが実際には、なかなか痒みと湿疹のコントロールは困 難なのですよ。

甲斐乃カク:ところで皮膚科の先生たちは、どんな治療をしてるわけ?

藪野フクロウ:アトピー性皮膚炎は、もともと皮膚の病気ですから皮膚病治療の二大原則、すなわち皮膚の 消毒・清潔保持と塗り薬ですね。最近は、これに加えて抗アレルギー薬すなわち内服薬を併用する皮膚科 医が多くなっています。つまりこれが皮膚科におけるアトピー性皮膚炎の三本柱というわけです。ちなみ に小児科では、これに除去食療法を加えた四本柱ですね。施設によっては、さらに漢方薬を併用する医師 もいます。私もときどき使っています。保険診療のできる漢方エキス製剤ですね。さらに忘れていけない のは環境のクリーンアップです。つまりハウスダストや、ペットの毛、フケなどを極力減らすこと。これ らは仮に主原因でないにしても、悪化因子になる可能性があります。アトピー性皮膚炎の原因を血液の IgE抗体で見ると、1歳以下では卵白が多く、以後はハウスダストが多いのですから。

甲斐乃カク:皮膚の消毒はなんで必要なの?

藪野フクロウ:前号でもふれましたが、アトピーの患者さんの皮膚には、普通はあまり見つからない黄色ブ ドウ球菌がきわめて高率に見つかるのです。そしてこの黄色ブドウ球菌は、別にそれ自身がどんどん増殖 して感染病巣を作らなくても、ただそこにいるだけで悪いのです。つまりこの菌の放出する毒素がスーパ ー抗原として作用するからです。それで黄色ブドウ球菌を駆除する目的で皮膚を消毒するのです。

肥やし家かつぎ:スーパー抗原と普通の抗原とは、どうチャウネン?

藪野フクロウ:普通の抗原(アレルゲン)は、からだに侵入してくると、だいたいリンパ球(この場合は、 T細胞と呼ばれる設計監理担当の細胞)のうち、10万個から100万個に一個の割合で存在する、その抗原 に対応するT細胞だけがノミネートされて登場し、今こういう物質が侵入してきたから、それをやっつけ る抗体を作れ、という指示(設計図)をだすわけです。この設計図どおりに、リンパ球の中でもB細胞と呼 ばれる施工担当の細胞が、実際にその抗原にピッタリ対応する抗体を産生することになっています。つま り特異的な抗原抗体反応というものは、まあ普通の場合には、その程度の頻度(1/105〜106)でしかお こらない現象なのですね。

肥やし家かつぎ:どの世界でもシノギはキビシイもんやのお。リンパ球にまで、口だけの親っさんみたいな んとか、パシリだけの若い衆とかランクがあるんかいな。

甲斐乃カク:かつぎさんって、根っからの極道なのね。発想がゼーンブそっちの方になってるみたい。

藪野フクロウ:まあ会社で言えば、取締役以上と平の違いがあるわけですね。ちなみにエイズのウイルス (HIV)は、T細胞を攻撃破壊するわけですね。幹部壊滅です。

甲斐乃カク:どこかの銀行みたいね。それでスーパー抗原の場合はどうなるの?

藪野フクロウ:スーパー抗原の場合には、それに出会うと、設計監理担当のT細胞がやみくもに元気をだす ようになって(これをT細胞の活性化と言う)なんと、100個から1000個に一個の割合(1/102〜103)も のT細胞が、うーむ、元気がでてきた、よーし頑張るぞ、お前ら(B細胞のこと)抗体を作れ!何でもいい、 がんがん作れ!と号令を出すようになるんです。つまり普通の抗原に比べると、1千倍から1万倍も大量 の設計図がばらまかれるわけですね。しかも抗原抗体反応の特異性が見られない、見境がない状態です。

肥やし家かつぎ:カシラが狂うたら、それあ若い衆も狂うで。

藪野フクロウ:それはもう当然、若い衆、おっといけない、ついうっかり危ない言葉を、、。B細胞という のは、ただもうT細胞の命令通りに抗体を作るのが仕事ですから、がむしゃらにどんどん作ることになり ます。そのうちに、いろいろな食品や環境物質に対しても、まちがって抗体ができてしまうのです。そし て抗体というものは、一度できてしまうと、その記憶がしつこく残るのですね。

甲斐乃カク:そしたら、黄色ブドウ球菌のだす毒素に対して、特異的に反応する抗体だけができるわけでは なくて、それ以外にも例えば、お米とか小麦とか卵とか大豆とか、そういうものに対する抗体までついで にできてしまう、ってこと?

藪野フクロウ:その通り、そういうことが起こりうるわけです。そしていったん卵や大豆に対する抗体がで きてしまうと、そこで卵や大豆を食べればその抗体と反応して、ますます卵や大豆に対する抗体が増えて くるんですね。そのきっかけを作るのがスーパー抗原というわけで、だからイヤラシイのです。だからそ のおお元になっている黄色ブドウ球菌をせっせと除かねばならないのですよ。

甲斐乃カク:でも黄色ブドウ球菌って、しつこくてなかなか除けないんでしょ?

藪野フクロウ:そうなんですね。病院では、一般にイソジンやマキロンなどの消毒剤を使っています。海水 浴が有効というのも、塩水で消毒して日光でダメ押しするからではないですかね。その他にも水深200 メートル位の深海の海水が効果的という人もいます。海水には、消毒だけではない何かプラスαの作用が ありそうだと言う人もいますが、まだ解明されてはいません。 私のクリニックでは、電解酸性水(超酸性水)をイソジン代わりに使っています。効果はイソジンとまった く同等です。黄色ブドウ球菌だけでなく、O157などの大腸菌、緑膿菌や、カビにも有効ですから、赤ち ゃんのオムツかぶれには最適です。寝たきりのお年寄りには床ずれが出来やすいのですが、これにも有効 です。私は、クリニックのスリッパや洗面所のクリーニングにも使っています。あとに臭いが残らないの で衛生的ですね。

甲斐乃カク:なんだかいいことずくめ、って感じね。

藪野フクロウ:この超酸性水を毎日2回全身に噴霧するだけでアトピーが治るという広告をだしているのを 見たことがあると思いますが、それは少し言い過ぎです。超酸性水でからだを拭くと、脂肪が除かれて皮 膚が乾燥します。だからきちんと保湿剤で後の手入れをしなくてはいけません。後のスキンケアーさえ怠 らなければ、使ってみる価値はあります。最近、重症のアトピー性皮膚炎の患者さんでは、超酸性水によ って、かえって皮膚の炎症が悪化したという報告もありますから、この方法も100%に効果があるわけで はありません。ただ手軽でコストもかからないので、いろいろやっても駄目だった人は試してみるのも良 いでしょう。

甲斐乃カク:ところで悪いのは、黄色ブドウ球菌だけなの?

藪野フクロウ:いえ、連鎖球菌やカビの仲間も怪しいのです。カビは体表だけではなくて消化管の中にもい ますから、患者さんは内と外から責められているわけです。カビの場合には毒素ではなくて、細胞壁の成 分が悪さをするようです。

甲斐乃カク:からだにはいろんな細菌やらカビやらが住んでるわけだけど、普通の人では何も起こらないの に、アトピーの人だけが何でそんな目にあうの?

藪野フクロウ:それは前回もでてきましたね、皮膚の表面も消化管の内側もsIgA(エスアイジーエー:分 泌型免疫グロブリンA)というバリアーがあるというお話。

甲斐乃カク:あっ、そうだったわね。アトピーさんは、そのsIgAの量がアトピーでない人よりも少なくっ て、そのために黄色ブドウ球菌やらカビやらの攻撃にさらされてしまうということね。そして菌の毒素が スーパー抗原として働いて、T細胞がふだんの千倍も一万倍も元気を出して、でたらめに抗体を作りはじ めると、ついつい卵や牛乳やハウスダストに対する抗体なんかもできてしまう、っていうわけね。

藪野フクロウ:sIgAが少ないだけではなくて、IgE(一部IgG)を作る能力は逆に亢進しているわけです。 だから患者さんでは、アレルギー反応をひきおこすこれらの抗体の産生が、スーパー抗原の存在下で、さ らに非常にさかんになっている、というわけですね。ちなみにカビの場合には、スーパー抗原というより もIgE抗体の産生を促進する補助因子として作用しているようですね。とにかく、sIgAが少ないことと、 IgEが出来すぎるということのどちらも、患者さんにとっては不利に作用しているわけです。

肥やし家かつぎ:せやけど何でsIgAが少ないんや。

藪野フクロウ:その理由は、まだ分かってはいないのですが、sIgAの元になっている、血液中のIgAはア トピーの患者さんでも普通の量ですから、問題を解く鍵は、分泌型IgAになるために必要なタンパク質に あるのかも知れないわけです。これも近いうちに解明されるでしょう。なお、皮膚表面のsIgAの量を正 確に計ることは、大変難しいので、臨床検査としては普及していません。現在は、IgEなどの血液中の抗 体のみを測定しているわけです。だからはっきり言えば片手落ちなのです。さて、いままでのお話しも非 常に簡略化しているわけで、実際にはもっと複雑な因子が絡み合って、アトピー性皮膚炎の病像を形作っ ているのですが、これ以上はあまりに専門的すぎるので省略させていただきます。


甲斐乃カク:じゃあ最後に、ごはんのことでシツモーン。アトピーでない子どもでも、卵とか牛乳とかは、 小さいうちは与えないほうがいいって聞いたことがあるけどホントなの?

藪野フクロウ:なかなか難しい質問ですね。アトピーのあるなしにかかわらず、だいたい1歳半までは、な るべく与えない方がいいようです。そもそも消化管の消化能力、吸収能力が完成するのが1歳半頃なので すね。ちょっと寄り道になりますが、消化管だけでなくて、腎臓の機能が完成するのもその頃です。だか らそれ以前の赤ちゃんのオシッコはあまり濃くないから、かけられてもばっちくない、というわけです。 また1歳半といえば、アンヨも上手になって結構小走りするようになりますね。つまり動物としてヒトを みた時に、食ったり出したりする面で、ようやく一人前のヒトになったよ、と言えるのがこの頃なのです。 さて元に戻りますが、消化吸収の能力が未完成の時期に、あまり濃度の高いタンパク質を与えると、その 一部が完全にアミノ酸に分解されないままに、アミノ酸が数個ずつつながったペプチドや、さらに長いポ リペプチドの状態で吸収されてしまう、と言われています。これらのペプチドやポリペプチドは抗原性を 持っている、つまり、からだに対して抗体を作らせることになるのです。 そういうわけで、まだ一人前の消化吸収能力が備わる前の時期には、なるべくうす味の食事がいいわけで すね。タンパク質は淡白に、というのがオチです。特に最近は、ハンバーグやチーズやウインナーなどの、 日本人が本来あまり食べていなかった、高タンパク、高脂肪の食品を小さいうちから与える傾向がありま すので、これから離乳を開始するご家庭では、十分気をつけていただきたいと思います。 離乳が終了してもしばらくの間は、和食中心の食事をした方がいいのですね。

甲斐乃カク:ワタシもそろそろ結婚するから、赤ちゃんできたら和食にするわね。ハーイ、アーンチテね、 ごはんでちゅよー、今日はおしゅしでーしゅ、今日はチャンコでーしゅ、今日は松花弁当でーしゅ今日は、

肥やし家かつぎ:ええ加減にせんと、しまいにゃど突くで、ホンマ。

甲斐乃カク:あら、かつぎさんて意地悪なのね、そうそう、かつぎさんも極道から足を洗って、カタギにな って、師匠の後を継ぐんだって?ワタシ、地獄耳なのよ。

肥やし家かつぎ:実は、先代の肥やし家溜三の名跡を継ぐことになったんや。任侠道を極めて極道組の跡と りになるつもりやったんが、噺家の跡を継ぐことになってもうて、道を踏み外したちゅうわけや。結局ワ テは、道を極めきれんかったんやなあ。極道のクズや。ホンデモッテな、さらに悪いことに溜三の一人娘 をもらわなあかん。これが極道顔負けのトンデル女やでえ。ホンマ弱っとるがな。

藪野フクロウ:ともかく溜三の大名跡襲名おめでとうございます。せっかくですから、足を洗う時には、超 酸性水で洗ってみては如何でしょう。渡世のアカもすっかり落ちますよ、きっと。

甲斐乃カク:ワー、それって、チョー賛成。 (お後がよろしいようで、、、これにてお終い)
  

発行:(医)一木こどもクリニック (責任者 一木貞徳) 1997.6.5 
住所:宗像市東郷下ノ畑394 TEL 0940-36-0880

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