1999-4

            一木こどもクリニック便り 1999年4月号(通算28号)

4月。さくらの花がゆっくりと舞う道にランドセルに足をとられながらじゃれ合う新一年生の姿を見るようになります。ヤドカリやタニシの群れのような、彼らちびっ子たちが21世紀の日本を背負うわけですが、環境も財政も今の日本社会には明るい展望はひらけていません。次代の若者に負の遺産を押し付けないように親世代は努めないといけないでしょう。早く不況が終わって欲しいと願います。

【こどもの病気の診かたと看かた(21)】

「最近感動したことがありますので、そのご紹介から始めましょう。1年ほど前から当院に通院されている男の子のお母さんですが、先月受診の際のお話。

「どうされましたか?」

「5日前から熱がありまして、最初は食べる・眠る・遊ぶは全部良かったので解熱剤(げねつざい)も使わずに様子をみていました。毎日午前中は熱が下がるのですが、午後から39度近くになりました。昨日からは午後も熱がなかったのですが、今度は咳がでるようになったので受診しました。タンがからむようで、昨晩は何度か起きましたが、背中をトントンしたら寝てくれました。今朝は起きた後にかなり咳込んでいましたが、アンパンマンのビデオをつけたら観ていました。ごはんはまだ食べさせていませんが、吐き気はないようで、水分もとれています。」

「……!うーん、……!すごい……!」
当院を受診されるお母さん方には、このようように的確な経過報告をされる方がかなりおられます。ですからそのこと自体は決してすごいことではありません。

ではいったい何がすごいのでしょうか。じつは、このお母さんも1年前は、平均以上に相当な心配性でした。こどもさんはけっこうきげんも良いのですが、発熱のたびに必ず通院してこられました。午前中受診されて、午後に体温がいっそう上昇したということで、1日に2度の受診もありました。それが1年後には、39度の発熱でもあわてなくなった、その進歩がすごいといえるでしょう。

何が彼女をこれほどの肝っ玉母さんに変えたかといえば、毎回の通院の中で、こどもの病気に対してわれわれプロと共通の「目」を彼女がマスターしたからに他なりません。こどもの病気のおかげですばらしい学習をしたといえます。ころんでもただでは起きるな、といつも私がくり返しているのもそういう意味です。

プロの目というのは何か。それは私がくどいほど、保護者の方に説明しているたった一つのこと、
すなわち、 「食べる・眠る・遊ぶ」の3拍子が病気の程度を判断するのにもっとも大切、という原則を正確に運用できるようになったことです。この原則はふくろう通信2号(H9,2)にくわしく説明してあります。

ただしこれまでにも説明してありますが、この原則にはいくつかの例外があります。

1) 1) 対象は急性の病気に限る。
 慢性疾患でも最後のどたん場になると、この原則が使えます。

2)生後3〜4ヶ月未満の乳児は除く= 首が座るまでは、例外扱いをする。
 新生児や首が座る前の乳児が発熱をした場合には、一見元気がよさそうでも、
 検査をしたほうが無難です。

3)寝たきりのお年寄りや、発達に障害 のあるハンディキャップの人も除く。
  たとえば脳性麻痺など重度の障害が あると、発熱すなわち肺炎や敗血症 などのこと   が多く注意が必要です。

4)予防接種の可否を判断する基準には ならない。三拍子が良くても、手足 口病などの  後は、1ヶ月あける。

5)学校伝染病などで出席を禁じられて いる期間の判断は、三拍子とは別物。

さて、このような例外を承知していれば、この原則はきわめて有効です。たとえば、

1)発熱していても食べる・眠る・遊ぶの三拍子が揃って良ければ、入浴可。
2)三拍子が良ければ、翌日まで待てる。 夜間急患センターに行かなくて良い。 逆に発熱はたいしたことがなくても、三拍子のうち2つ以上悪いときには、その日のうちに受診しておく。
体温計を見て行動してはいけない。体温の絶対値(発熱の程度)は、病気の重症度とまったく関係ない。
3)血便や白色便などを見ても、三拍子 が良ければ、その場でさわぐ必要な し。ゆっくり受診で良い。
4)からだの病気だけでなく'心'の異 常にも使える。三拍子が悪い場合は '心'の異常でも重症=長引く。

病後児デイケアルーム「すくすくくらぶ」 のお知らせ

宗像市と福間町では、4月1日より、病後児を預けて仕事をされる保護者の方を支援する目的で、「すくすくくらぶ」を開設しています。場所は新設された宗像地域医療センター3階です。

「すくすくくらぶ」を利用できる人は、保育所、幼稚園、小学校3年生までのお子さんで、病気の回復期などで集団生活が困難な場合です。毎日4名まで利用可。

宗像市と福間町の住人で保護者が仕事の都合や、事故・病気・出産・冠婚葬祭など、社会的にやむを得ない事情で、家庭でのケアが困難なお子さんに限ります。

利用時間は8時から午後5時30分まで。
受付は、午前8時から10時まで。
前日からの予約も可。 料金はこども1人1日あたり2500円。

「すくすくくらぶ」を利用するためには、あらかじめ行政に登録が必要です。またかかりつけ医師からの「医師紹介カード」が必要です。
詳細はパンフレットをご覧ください。


【後 記】

インフルエンザの流行で患者さんが殺到し、診察順の間違いなど不愉快に感じられた方もおられると思います。また混雑の中で職員の対応にも行き届かない面があったかも知れません。少しゆとりのできた今、数ヶ月間の診療を振り返りつつ、配慮不足であった点をお詫びいたします。

発行:医療法人 一木こどもクリニック 1999.4.5
住所:宗像市東郷字下ノ畑394 TEL 0940‐36‐0880

戻る | 次へ
1997年| 1998年| 1999年2000年2001年

|TOP|診療案内|こどもの病気の対応|ふくろう通信|心の相談室|ふくろう笑劇場|久能先生との対談|医療過誤問題|自己紹介|BBS|リンク|メール|医院地図|サイトマップ|