くろ通信00-

一木こどもクリニック便り 西暦2002年1月(通算61号)

功利性優先社会のツケを払う時

新世紀がスタートして2年目。世界と日本の歴史は大きな曲り角に直面しています。現在は、社会のあらゆる面で、前世紀の負の遺産を整理することに追われています。

わずか20数年前まで「消費は美徳だ」と政府・産業界が一体となって唱え、消費者もそう信じていたのですが、近年は一転して、リサイクルが義務になってきました。

急速な近代化、工業化の過程で、自然環境や衣食住などの生活環境は功利性のために犠牲になってきました。見かけ上使い勝手が良ければ、単純にそれは良い製品であり、どういう結果をもたらすのかなど、真剣に問われることもなかったのです。

環境ホルモンやシックハウス症候群(住宅および関連製品による健康被害)、相次ぐ薬害、そして乳製品汚染や狂牛病事件など、近年明らかになってきた一連の現象は、互いに関係なさそうに見えながら、実はそのどれもが、安全性に目をつむり、目先の便利さを優先したことによる人為的災害であったことを物語っています。

生命と環境を重視した社会に

化学合成された治療薬の代表として、ニューキノロン系と呼ばれる抗菌剤を考えてみましょう。この薬はブドウ球菌や大腸菌など、ほとんどの細菌感染症に有効です。

ところでその骨格をなすキノロン環は、ベンゼン環が2つ並んだ形をしていますが、自然界には、私たちの人体も含めて、その構造を分解する仕組みが存在しません。

したがって生体で分解されることなくそのまま尿に排泄され、下水を通して海洋へと運ばれます。世界中で使用される量は年間5万トン!丸ごと海洋中に蓄積します。

海の中には、もちろん無数の細菌が生息しています。それらは魚介類や海草類と共生関係にあるものや、病気を起こすものなどさまざまでしょう。そこに毎年大量の、未分解(活性型)の抗菌剤が流れ込んでくると何が起こるでしょうか?

海洋中の細菌の中には、これら抗菌剤に触れるうちに、抵抗性を獲得する菌種が出現するでしょう。その菌は微生物やプランクトンに取り込まれ、次に小魚に…と次々に食物連鎖を経て、最後は人間がタンパク源として摂取することになるはずです。

その時、抗菌剤無効の細菌が人間に病気を起こすことはないでしょうか?
病気を治したはずの化学物質が、海洋に運ばれ、そこで抵抗性のある細菌に出会い、やがて複雑なステップの末に、再び人間の体に病気を起こすかも知れないのです。

薬剤の開発などは、たとえ時間と費用がかかっても、それが最終的に何をもたらすことになるかを慎重に考え、生命系全体のバランスを計算して行う必要があります。それが私たちと次世代の健康と生命を守り、自然環境の保護につながるはずです。

「こどもの病気の診かたと看かた(65)天候と感染症の関係」

お正月の寒波で一時的にインフルエンザの患者さんが増えていたのですが、その後の思わぬ暖冬で、今度は手足口病などの夏かぜが見られるようになりました。だいたい週間天気予報を見ていますと、流行しそうな病気の予測がつきます。

冷たい風がふきつけるような冬型の気圧配置が数日つづくと、インフルエンザやRSウイルス(乳幼児に重い気管支炎をおこす)など、呼吸器の患者さんが増えます。

ところが、梅雨どきと勘違いしそうに蒸し暑く、じとじと雨やどんより曇りの日がつづくと、こんどはエンテロウイルスやアデノウイルス感染症が増えてきます。これらは、下痢や腹痛、嘔吐などを起こします。エンテロウイルスでは、口内炎や手足口病、アデノウイルスでは結膜炎や首まわりのリンパ節がはれることもあります。

さいきんのようにお天気がめまぐるしく変わりますと、小児科の外来を受診されるこどもさんの病気も日替わり定食のように変わります。

病気がやっと治って、やれやれとホッとした途端に、また別の病気になってがっかりされるお母さん方も多いでしょう。しかし、病気になることはこどもさんにとっては学習なのですから、がっかりしないでくださいよ、と私は申しております。

こどもさんの生体防衛システム(免疫系、神経系、内分泌系などの総合プログラム)は、病気をひとつ経験するたびに、より完成に近づいていくのです。

たくさんの病気をくり返すこどもさんは、大量の練習問題を解くのと同じ、長い人生のためにはとても大切な学習作業をしているのです。苦悶式学習法と呼べますね。

「こどもの病気の診かたと看かた(66)花粉症の予防を」

三人娘の歌ではありませんが、もうすぐ春ですね。とはいえ立春前ですからもう1回か2回は寒波がくるでしょう。しかし油断大敵。例年2月に入ってまもなく、春一番(その年最初の南風)が吹くと、とたんにスギ花粉症の患者さんが増えてきます。

今年の花粉情報では、西日本ではスギ花粉がやや増える見込みとのこと。
アレルギーの専門家は、花粉が飛散する2週間前から予防的に抗アレルギー剤の内服を勧めています。花粉症の治療は、症状が出始めてからではすでに遅いのです。

毎年、結膜炎で外出さえできない人もいますが、無症状のうちに、あらかじめ治療を開始しておけば、症状をゼロにはできないまでも非常に軽くすることができます。今年軽く過ごせれば、それは来年以降にも反映します。花粉症は症状そのものが貯金をするように、年々アレルギーの記憶として体内に蓄積していく病気だからです。

【あとがき】阪神淡路大震災から7年経ちました。亡くなられた方々のご冥福を祈ります。
被災された方々が心の平穏を回復され、日々の眠りを得られますことを心から祈ります。

発行:(医)一木こどもクリニック (責任者 一木貞徳) 2002.1.17:宗像市大字東郷394 TEL 0940-36-0880

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