くろ通信00-2

一木こどもクリニック便り 西暦2002年2月(通算62号)

これからの数ヶ月間は、花粉症の方には、大変につらい季節ですが、医学もどんどん進歩しており、症状をおさえるのに有効な新しい薬もたくさん登場しております。原因がスギやヒノキ花粉であることが判明している方は、花粉情報にご注意ください。 福岡県医師会が運営しているホームページで九州の花粉飛散予測など詳しい情報が得られます。 http://www.fukuoka.med.or.jp/kafun/kafun.htm 参考にしてください。

「こどもの病気の診かたと看かた(67)こどもの精神衛生の現状」

小児科医の勉強会で、福岡教育大の横山先生(心理学)のお話をうかがいました。 現代っ子の生活の特徴として、先生は多くの問題点を指摘されました。
  1. 食事がおかしい。朝食はファストフードか、まったく抜き。朝食や夕食の時間も不規則。
  2. 睡眠がおかしい。寝る時間が小学生でも深更になることが多い。その分、朝きちんと起床できないこどもが増えている。
  3. 遊びがおかしい。年齢の異なるこどもたちと群れて遊ぶ経験 (ギャングエイジ)がない。遊びも知らない。年長児童から年少児童への遊びの継承がなくなった。
  4. 親になっても子育てがわからない。少子化のため、結婚して育児生活に入る前に、弟妹の世話をした経験がない。
 横山先生は福岡市や宗像市で、先生が中心となって実施されたアンケート調査で得られた豊富なデータを使って、非常に分かりやすく説明していただきました。

 これを私ふうに考えてみますと、1.〜3.は、いつもこの通信でくり返しているように、「食う・寝る・遊ぶ」がおかしくなっている、ということになります。
 人間がこどもから大人になるということは、食べて眠って遊ぶことと同義語なのですから、それらがすべておかしくなれば、4.の異常がでてくるのは必然と言えます。

 しかし、大変だ、大変だというだけでは何も改善されませんね。
 ご家族にとっても、少子高齢化の日本社会全体にとっても、かけがえのない宝であるこどもたちを、困難な育児環境の中で心身ともに健やかに育てていくために、少しでも参考になる知恵がないか、それを皆様といっしょに今年も考えていこうと思います。

「こどもの病気の診かたと看かた(68)今冬のインフルエンザ」

 この冬のインフルエンザ(流行性感冒)は、Aソ連型ウイルスによるものが主流だそうですが、A香港型ウイルスや、B型、それにC型ウイルスも検出されているようです。 当院でも昨年 11月初めからすでに見られ、1月末から増えてきました。発熱してから48時間以内に使用すれば有効な薬もあります。早めに医療機関を受診しましょう。

手洗いとうがいをこまめにし、人ごみを避け、睡眠を十分にとり、のどが乾燥しないように、部屋の換気と湿度に注意します。つまり、ふだんから体力維持と清潔な環境維持につとめることが一番大切ですが、それでもかかってしまうことがあります。

 インフルエンザの治療には、からだが持っている自然の治癒力をそこなわないように、細かい注意が必要です。 6歳以下のこどもさんに、危険な合併症である脳炎や脳症が集中しているのは、自然の治癒力自体がシステムとして完成していないためです。

 病気をコントロールするシステムが未完成であれば、ときに暴走します。インフルエンザウイルスは、普通かぜのウイルスにくらべると、ゴジラとトカゲくらいの違いがあり、相手が強大なので、体も必死で何とかしようとメールやファクスを連発します。

 病気のときに発信されるこれらのメールやファクスをひっくるめて、 サイトカイン と呼びますが、本来は生体に有利なように働いてくれるはずのサイトカインが、あまりに連発されて制御不能になり、本土防衛どころか逆に本土攻撃を行うのです。

 近年になり、脳炎・脳症・ライ症候群(肝臓や脳などの多臓器不全)をおこしたこどもさんでは、全身あるいは重要な臓器における血管の炎症が起こっていることが知られてきましたが、これら同時多発テロともいうべき全身血管炎に、サイトカインが深く関与していることがわかってきました。未完成の防衛システムが暴走したわけです。

  お年寄りでは、インフルエンザの合併症として恐いのは、気管支炎・肺炎です。 こちらは、システムが未完成だからではなく、システムがくたびれて賞味期限にさしかかっているからです。つまり加齢現象ですね。のどやハナから進入したウイルスは、最初に辿りついた広々としたリビング (=気管支、肺)に、あっという間に広がります。

 さらに、高齢者では、ふだんから軽い脱水状態にある、つまり全身の細胞が、干しぶどうや干し柿状態にあるわけですが、発熱によって、その脱水状態が一挙に進行してしまいます。こどもの脱水と異なり、お年寄りの細胞内脱水はゆっくりと点滴をしないと危険です。乾しシイタケやワカメを水に戻すよりも時間がかかるのです。

「こどもの病気の診かたと看かた(69)サルにも花粉症が!」

兵庫県・淡路島のニホンザルにも、スギ花粉症がかなりの頻度で発生していることが、大阪大学生物人類学の和 (にぎ)秀雄先生たちの調査で明らかになりました(教育医事新聞、2002年1月25日号、教育医事新聞社、http://www.the-em.co.jp/)。

 どうしてサルの花粉症がわかったかというと、野猿公園で調査中にスタッフの方が、自分に症状が出る時期になると、目がはれたり、涙をながしているサルがいることに気づき、スギ花粉症に特異的な血液の IgE抗体を調べ、かつ症状を詳しく観察して分かったのだそうです。サルも大変だけど調査された先生たちもご苦労さま。

あとがき患者さんには花粉症の予防治療を勧めながら自分は怠っていたせいで、ついに去年よりひどい症状になり、あわてて抗アレルギー剤を開始。 反省しております…キャフン!

発行:(医)一木こどもクリニック (責任者 一木貞徳) 2002.2.12:宗像市大字東郷394 TEL 0940-36-0880

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