こどもの病気の対応
―アトピー性皮膚炎についての鼎談そのA―
出席者:藪野フクロウ、 肥やし家かつぎ、甲斐乃カク
     (キャラクターについては、前号解説をご覧下さい)
藪野フクロウ :ふぁー、良く眠らせていただきました。フクロウは夜起きて仕事をする、などと世間様はお 考えのようですが、「徹夜で猛熟睡」が私のモットーでして。まったくフクロウの風上にもおいてもらえな い、と常々反省しております。ところで前回はどこまでお話したんでしたかな。
甲斐乃カク :アトピーについての常識の間違いそのC、皮膚のバリアー障害のところだったわね。IgAが何 とかと。ワダス、あれから猛勉強さしだのっす。頑張ったのっす。ハエー、アドビーってムッズカシンダ ワネー。ワゲさワガンネッス。
藪野フクロウ :ンダナッス。ズヅノトコロ、ワダスニモ、まんだナヌガ何ダガサッパリナンダベ。あれれ、 ズーズー弁が伝染しちゃったですな。
肥やし家かつぎ :早う始めたらんと、また今月も終ってしまうで。
藪野フクロウ :少年老い易く学成り難し、一寸の光陰なんとやら。ウーム、こんな無駄話をしている暇はな い。では今月も頑張って続けましょう。図を見て下さい(復刻版では省略)。アトピー性皮膚炎の診断に重 要な皮膚の変化は、3つあります。@屈曲部の病変、A苔癬(たいせん)化病変が見られる、B全身に病変 が見られる、以上の3点です。
肥やし家かつぎ :それは前回も聞いたんやけど、よう分からんかってん。そこからつまずいたんや。もっと 親切に詳しゅう教えてんか。
藪野フクロウ :質問する時には、手を挙げましょう。それから敬語を使いましょう。屈曲部の病変というの は、耳たぶの周辺、首のまわり、わきの下、肘や膝の裏側、手首、足首、陰部などにジクジクあるいはカ サカサした湿疹が見られることを示しています。この屈曲部の湿疹は特に痒みが強いのです。本の背表紙 と同じで、折れ曲がる部位は、伸縮回数も無数ですから、いったん傷ができると回復も大変です。
甲斐乃カク :ハーイ、セーンセー、質問。耳は動かないのにどうして切れるの?
藪野フクロウ :耳を動かせる人は結構いますよ。あそこは、血のめぐりが悪くて体温が低い部位だから、傷 の回復も遅れるんですね。耳なし芳一だって、あそこに湿疹があってお経の札が貼れなかったんじゃない でしょうか。
肥やし家かつぎ :またわてをかついどるな。耳なし芳一がアトピーやったとは初耳や。だいたいあんたの言 うとることは、どれもこれもウソっぽいで。
藪野フクロウ :ホーホー。
肥やし家かつぎ :何やねん、そのホーホー言うんは。
藪野フクロウ :フクロウの鳴き声、いや泣き声です。あんまり私をいじめないでください。カウンセリング を受けないといけなくなるじゃないですか。
肥やし家かつぎ :ほなら、これからは話半分と思うて聞いたるわ。続けていいで。
藪野フクロウ :苔癬(たいせん)というのは、岩や地面に張り付いたコケのことです。いわゆる地衣類という やつですな。患者さんの皮膚のあちこちにコインのような、丸く厚みのある、ちょうどマルボーロの皮の ように肥厚した皮疹が見られるようになります。これは同じ部位にくり返し湿疹を起こす刺激が加わって 生じるものですから、慢性の湿疹であることを意味します。また皮膚の線維を作る細胞の増殖性の変化が 起きているわけで、一朝一夕には治らないことをも意味しています。
甲斐乃カク :今度から丸ボーロが食べられなくなったワネ。ワタシ好きなのに。
藪野フクロウ :そして、患者さんの皮膚をよく見るとほぼ全身の皮膚がカサカサしており、まともな皮膚は ほとんど見られないわけで、これがB全身に病変が見られる、ということなのです。これらの三つの病変 の分布や程度は年齢によっても変化してゆきます。わが家のアトピー息子たちも、この頃は、見かけ上は 全身ツルツルで、おしりの付近だけカサカサが残っております。
甲斐乃カク :ワタシのおしりは、すべすべツールツルよン。さわって見るウ?
肥やし家かつぎ
:エー加減にせな怒るで、ホンマ。
藪野フクロウ :では、次にアトピー理解で最大の難関、免疫の問題に移りましょう。アトピー性皮膚炎の患 者さんでは、一言で表現しますと、体の内部では免疫過剰反応が見られ、皮膚つまり体の外側では、逆に 免疫不全の状態が見られるのです
甲斐乃カク :家の中では、めちゃ元気でいばってるのに、外にでるとコソコソしてる、うちのお父さんみた いやわー。 藪野フクロウ:ホッホッホー、実は私もそうでして。
肥やし家かつぎ :こらこら、ちょっと油断するともう脱線や。あきれたおっちゃんやなあ。今日は何として もアトピーのことを頭にたたきこんで帰るつもりなんやで。
藪野フクロウ :どうでもいいようなことを叩きこまれる頭の方も可哀相ですな。アッ、いや今のは独り言で して。体の内部で見られる免疫の過剰反応というのは、前回お話しましたように、免疫グロブリンの中の IgEという物質が、正常人にくらべて、出来やすい体質であるということなのです。
甲斐乃カク :免疫グロブリンて全部で5つあるんでしょ?ワタシ、調べちゃったんだ。健康雑誌なんかを見 てるとチャーンと載ってるワよん。
藪野フクロウ :大まかに分けると5種類に分けられます。このうち、IgDというのは、まだ詳しい性質は解 明されていません。残りの4種類の免疫グロブリンの分布は、体内でほぼ決まっています。つまり、それ ぞれの守備範囲が決まっているわけです。ちなみに、Igというのは、免疫グロブリン(Immuno-globulin) の頭文字です。水ぼうそうや、おたふくかぜにかかった後に出来る抗体といわれるものが、IgMやIgGと いわれるものです。この両者は、血清中の主要な免疫グロブリンです。 アレルギー反応をひきおこす、あまり歓迎されない抗体がIgEですね。このIgEは、おもにマスト細胞に 結合した形で、気道、消化管、そして皮膚に分布しています。最近では、IgGの一部もアレルギー反応に 関係していることが分かってきました。 母乳の中に含まれているのがsIgAというものです。これは、血液の中にあるIgAに別の部品がくっつい て作られるのですが、血液中のIgAの役割は、sIgAを母乳中や消化液、唾液、鼻汁中に分泌することで すから、IgAと言えば、すなわちsIgAのことを指すわけです。 そして最近、皮膚にもsIgAが分泌されていることが判明したというわけです。 つまり、アトピーの場合には、体の内部で問題になるのが、IgE(一部はIgG)で、体の外部すなわち皮膚 の表面で問題になるのが、sIgAだというわけです。
甲斐乃カク :ちょっと待って。せっかくお勉強したんだから、これからは、ワタシが解説してあげるワよん。 えーと、確かsIgAは、細菌やカビなどの攻撃から皮膚を守ってくれるバリアーの役目をしてたんだっけ。
藪野フクロウ :ピンポーン。教え甲斐のある生徒をもつとうれしくて泣けてきますよ、甲斐乃さん。
甲斐乃カク :そっただ誉められっだば、ワダスこっ恥ずかしぐでなんねダ。んだどもナーンド勉強さしでも、 やっぱ難シンダネエー。アドビーってもっどカーンタンなもんだと、ワダス思ってたダアー。
藪野フクロウ :いえいえ、想像以上に奥の深い病気ですよ。ナメテはいかん、掻いてもいかん、叩いてもこ すってもいかん、まことに厄介な病気でして。
甲斐乃カク
:それで、sIgAの量が少ないために、皮膚のバリアーがうまく機能しなくって、水いぼやら、 帯状ヘルペスやら、黄色ブドウ球菌やら、わけのわからんものがいろいろできるわけよネ。
藪野フクロウ :とくに黄色ブドウ球菌は、アトピー性皮膚炎で皮膚が荒れた結果ではなくて、最近では、ど うもアトピーそのものの皮膚症状の成立に関与しているのではないか、と言われているわけですな。
肥やし家かつぎ :そこがどうもよく分からんのや。
藪野フクロウ :菌がそこに住み着いているだけ(コロナイゼーション)のものと、菌による病変形成(膿など) とあります。膿のでている病変部には白血球が集まっていて、それが壊れたときにいろいろな消化酵素を 放出します。それによって皮膚が直接的に障害されて、荒れるわけです。しかしもっと重要なのは、菌の だす毒素自体なのですよ。黄色ブドウ球菌の毒素としておもなものは、α毒素とエンテロトキシン (TSST-1)とがよく知られています。α毒素は皮膚の表面に放出されて、直接に皮膚を障害します。エンテ ロトキシンは、もっと複雑な関与をしています。ちなみにエンテロは腸の意味で、トキシンは毒素のこと です。
肥やし家かつぎ :菌だけやともの足らんゆうて毒まで出そうゆうわけやな。相当な悪やで、その何たら菌は。
藪野フクロウ :ちゃんと黄色ブドウ球菌と言ってあげないと、菌も可哀相ですよ。
甲斐乃カク :そのエンテロトキシンって、どんな複雑なことをしているの?
藪野フクロウ :エンテロトキシンというのは、黄色ブドウ球菌が、われわれの体の内部にまで侵入してきた 時に、いろいろなきっかけでどっと放出する、とてもいやな毒素なんです。アトピーの患者さんでは、エ ンテロトキシンに対するIgE抗体ができてしまって、それがまず悪いんですね。IgE抗体ができると、何 でも過剰に反応してしまうわけですから。しかしもっと厄介なのが、エンテロトキシンによる、スーパー 抗原としての作用なんです。
甲斐乃カク :ハーイ、質問。それ、スーパーで買えるの?
藪野フクロウ :スーパーでは、ブドウは買えますが、黄色ブドウ球菌とかエンテロトキシンとかは、もとも と食品売り場で見つかってはならんものですよ。営業停止になります。まあ、スーパー抗原の話は大変む ずかしいので、次回もう一度お話いたしましょう。それと、肝腎の治療のことまでいきたいんですが。
肥やし家かつぎ :それを待ってたんや。大体おっちゃんの話は、難しすぎてついていくのが大変なんや。せ やけど結構面白いところもあるよってに、ガマンしいしいついてきとるんや。この次もつきおうたるさか い、きっちり決めたれよ。
藪野フクロウ :(震えながら)ひょっとして、肥やし家さんは、極道一家の御出身で?
肥やし家かつぎ :今ごろ気づきよったんかい。医者も極道もそない変わらんのんとちゃうか。道を極めた者 同士や。アンバイ付き合うたりいや。ほなら頼んだでえ。
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