ふくろう通信1997-7

               一木こどもクリニック便り 1997年7月(通算7号)

暑中お見舞い申し上げます。そろそろ梅雨も明けるでしょう。
これまで毎年梅雨になりましたが、今年はとうとう梅雨が明けなかったなどという夏はまだ一度もありませんでした。さて梅雨明けには、押し入れやベッドの下、リビングルームなどの大掃除をお勧めします。ダニの発生が年間を通じてもっとも多いのが梅雨明けの時期なのです。ダニを減らせば、アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー性疾患はかなり症状が軽快します。

   [こどもの病気の診かたと看かたE]
              うつる病気とうつらない病気

最近、宗像市周辺では夏カゼの一種の「ヘルパンギーナ」という病気が流行っています。 これはエンテロウイルスによる急性ウイルス性感染症です。冬のインフルエンザと違って、熱がかなり高いわりには、皆さん結構元気です。熱も1日から3日で解熱(げねつ)します。

うつる病気の典型で、1週間もすれば「あれは一体何だったんだろう」という具合にすっかり回復します(たまに嘔吐や下痢で脱水になって、点滴を受けたり、無菌性髄膜炎を合併して入院になる子どもさんもいますが)。ともかく1週間以内にカタがつく病気です。

一方、わずかにハナミズと咳しかでない、熱もたいしたことがないのに延々と症状の続く子どもさんがいます。あるいは「気管支が弱い」と言われたことがあるような子どもさんで、カゼをひくたびに、のどのあたりがゴロゴロ、ゼイゼイとまるで「セロ弾きのゴーシュ」のような、にぎやかな音をたてているケースもあります。

先ほどのヘルパンギーナも病気なら、こちらのゼロゼロ坊やもやはり病気ですが、二つの病気の違いは一体どこにあるのでしょうか。

ヘルパンギーナの子どもさんの隣に、まだ罹ったことのない同年齢の子どもさんを置いておくと、同じようにヘルパンギーナに罹ります。インフルエンザなんかでは、子どももお年寄りも見境がありません。一家総ナメです。すなわちこれらは、伝染性の病気(感染症)です。

ところが、ゼロゼロ坊や(お嬢ちゃん)の隣に同年齢の子どもさんがいて、一緒に遊んでいても、このゼロゼロは周りのお友達にはうつりません。

つまりこのゼロゼロは、その坊やだけの症状なので、これが一般に体質といわれるものです。しかし幼児期にみられるこのような症状では、かなりの子どもさんの場合に、成長とともにいつしか何ともなくなってしまうのです。したがって、年齢依存性の症状とも考えられます。

【うつる病気の部分とうつらない病気の部分を注意深く分けて考える】


さて、小児科外来の大部分を占める呼吸器の病気には、このようにうつる病気による症状と、もともとその患者さんが持っている体質にもとづく症状とが混在していることがあります。そして治療内容の選択、日常生活上の注意点、治療期間の見通し、長期的な予後などを考える時には、これら両者の見極めが重要なポイントになるのです。

ここであまり細かい問題を指摘しても、なかなか理解していただけないと思うのですが、例えば気管支喘息のお子さんを一人でも育てられたことのあるお母さんでしたら、以下に述べていくことがきっとよく理解できることでしょう。

【スイッチオン・オフ型の病気とインバータ型の病気】


うつる病気というのは、スイッチオン・オフ型の病気と考えてみればよく分かります。ハシカやインフルエンザは、それぞれのウイルスが体に侵入してきた時にスイッチがオンになり、ウイルスが体の防御機構(免疫システム)によって排除され終った時が病気から回復した時、つまりスイッチがオフになる時です。すでに同じ病原体に罹ったことのある人では、スイッチがオンになる前に免疫システムによって排除されてしまうため、病原体が次に侵入してもスイッチはオンにはなりません。

また病原体を排除できないまま、なすがままに暴れさせてしまうこともあります。つまり肺炎や髄膜炎で命を落とす、ということは免疫システムが病原体との闘いに敗れてスイッチを切ることに失敗した、と考えられるのです。われわれの体は、このように外部から侵入してくる無数の病原体と日々すさまじい闘いを繰り広げているのですが、免疫システムのおかげでほとんど大事に至らずに済んでいるわけです。

予防接種(ワクチン)は、あらかじめ弱い病原体などを体に入れて免疫システムに味見をさせておいて、本物が入って来た時にはこの免疫システムによってただちに排除してもらう、つまりスイッチオンにならないようにするための手段なのです。

また薬やいろいろな他の治療は、この免疫システムを助けて、それが十分にうまく働けるように補助するもので、ある種の抗ガン剤のようにガン細胞はやっつけるけれども、ついでに免疫システムまで破壊してしまうようなことでは困るわけです。 (というよりもともと免疫システムに異常があるから発ガンするのですが)

ところが、気管支喘息慢性副鼻腔炎などという病気は、スイッチがいちどオンになったら、何年間もオフになりません。スイッチは入りっぱなしです。それでも症状が常に見られるかというとそうでもないのです。

気管支喘息を例にとりますと、ふだんは何事もないのですが、カゼをひいたり体を冷やしたり、台風が近づいてきたりすると症状がでてくる。夕方遅くまで外で遊んでいて、帰ってくるとゼイゼイいったり、朝起きた時に咳き込む、走った後に咳き込む、スーパーで、冷凍食品のコーナーの辺りにくると咳き込む。

お盆にジイチャン・バアチャンの家に泊って、お線香を吸ったり花火遊びをした夜、寝てしばらくするとヒューヒューいいだす、などの症状が見られます。お墓参りも要注意です。煙モノはよくありません。

しばらく通院して吸入や内服薬の治療を受けると、(見かけ上)治るので薬を止める。すると数日してまた同じ事を繰り返す。時々夜中に呼吸が苦しくなって、急患センターに駆け込む。そんなこんなで、月の半分くらい通院している患者さんもいます。

これはどういう理由によるものでしょうか。ひとことで言いますと、 病気のスイッチが切れていないのに、治ったと勘違いして治療のスイッチをオフにしたからです

気管支喘息や慢性副鼻腔炎は、もともとスイッチオン・オフ型の病気ではなく、最近のエアコンなどによく見られる形式のインバータ型の病気である、すなわち強弱運転を繰り返している病気なのです。ハシカやカゼとは全然タイプが違うのです。

あなたのお子さんが、こういうインバータ型の病気ですよ、と診断されたら、親としては腹をくくるしかありません。開き直るしかないのです。

私も3人の子どものうち2人が喘息(+アトピー性皮膚炎+花粉症+慢性副鼻腔炎+起立性低血圧)でしたから、子どもが小さい頃は夜中にしょっちゅう起こされました。大学病院の当直ではほとんど眠れず、フラフラになって「今夜はゆっくり眠るけんね」と思って帰宅すると、一番眠い夜明けにわが子がヒューヒューです。大体子どもという存在は、父親が不在の時や、疲れている時に限って病気をするものです。こういう子どもが1人でもいると親は熟睡なんてほとんどできません。 それが2人も!

けれども親はそれを受け入れるしかありません。なぜうちの子が喘息なんかにならなければいけないのか、どうしてこんな目に遭うのか、マイッチャウナー。 そんなマイナス思考では子どもにとって不幸なだけでなく、あなた自身にとっても大きなチャンスを失ってしまうのです。こういう子どもさんを心身ともに立派に育てることで親は成長します。

一人一人が持って生まれた特性を良く理解し、気長に付き合うことで子育ての楽しさも増えます。慢性の病気を持っている子どもさんは、親である私たちに、自分の欲望を抑え、耐えることを教えるために、神様がつかわして下さった大切な存在ではないでしょうか。

アーア、有り難や、ナンマンダーブ、妙法蓮華経、アーメン、嬉しくって父ちゃん涙がでちゃうぜ、と思いましょう。それだけではなく、病気そのものに対するケアーの仕方を少しずつ身につけていくことができ、それはお年寄りの介護などにもきっと何時か役にたつのです。

         【インバータ型の病気との付き合いかた】

これらインバータ型の病気に対しては、どのように付き合うべきでしょうか。これらの病気は、スイッチはずっとオンの状態で強弱運転を繰り返している、と述べました。すなわち症状がほとんど消えていたり、弱くなったり、強くなったりを不定期に繰り返しています。次回もっと具体的に解説しますが、治療のコツは、症状の強弱に合わせて治療も強弱にする。

ただし症状が弱から強になる前に見破って、あらかじめ治療を強にし、症状が弱になった後で治療を弱にする、決してみかけの症状のあるなしで治療をオン・オフにしない、ということなのです。

                【講演会のお知らせ】
7月17日(木) 午後7時15分
     「学校カウンセリング」
     講師 冨田和巳先生 (大阪市、小児心身医療研究所長、小児科医)
     司会 一木貞徳
     場所 宗像医師会病院3階講堂
     冨田先生は日本小児心身医学会の中心的存在で、多数の著書がある方です。
      参加費用は無料です。関心のある方は聴講できますが、会場は限りがあります。

7月26日(土) 午後1時〜4時
    「成長曲線からみるこどものからだと心の発達
        −小児科診察室からこどもの心身の問題を考える-」

    福岡県精神保健福祉センター主催 「精神保健夏期講座」
   講師 一木貞徳 (一木こどもクリニック)
   場所 春日市クローバープラザ(春日市役所となり、TEL 092-584-1212)
   参加費:4.000円(事前登録が必要です。詳しくは受付まで)

         【診療態勢一時変更のお知らせ
8月27日(水)より、9月7日(土)まで、中華人民共和国新彊(しんきょう)ウイグル自治区へ、福岡教育大学の調査団とともに随行医師として出張いたします。 この期間は院長不在のため、福岡大学病院小児科講師の山口 覚先生に代診をお願いしております。これにともない、診療開始時間、受付終了時間などが大幅に変更となり、また木曜日は全日休診となります。 詳細は別途掲示いたしますが、お間違いのないようにご注意下さい。

【編集後記】 連日の猛暑に食欲もなく、少しは栄養をとウナギを食べたとたんに腹をこわし、あわてて薬をのんだら胃をやられ、医者の不養生とはよくも言ったり。どこかに良い先生はいませんかあ、、、皆様もご自愛下さい。(文責 一木貞徳)

発行:(医)一木こどもクリニック (責任者 一木貞徳) 1997.7.7 
住所:宗像市東郷下ノ畑394 TEL 0940-36-0880

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